分断する世界。新型コロナウイルスは「国連」をも終焉させるのか

 

存在の危機に晒されるEUとユーロ

“国際”協調ではありませんが、国内で協調的な対応をしようとしているのが、トランプ大統領のアメリカ合衆国でしょう。建国以来歴史上初めてらしいのですが、全米50州に大規模災害宣言が発出され、事実上、全米が緊急事態宣言下の体制になりました。

トランプ大統領のハンドリングには賛否両論がありますが、コロナウイルスの感染拡大に対する公衆衛生上の対応はもちろん、アフター・コロナのアメリカ経済回復に向けた州同士の協力が多発してきているようです。連邦政府は方向性を示し、それに権限を持つ知事が納める州が具体的な策を共同で講じるという体制が確立しつつあります。

それに反して、戦後統合のシンボルであり、テストケースであった欧州連合(EU)は、その存在が危機に晒されています。Brexitは確かにショッキングでしたが、Brexitに対しては、EUは比較的統一戦線を保ち対応することが出来ました(個人的には、EUの交渉戦術は下手だったとは思いますが)。

しかし、今回、COVID-19がEU各国に迅速に広まり、イタリア、スペイン、フランスでは大きな被害をもたらし、ドイツも自国内の封じ込めに躍起になっている状態で、連帯とは程遠い状況でしたが、“感染がピークを迎えたのではないか”との見解が出た後、統合と連帯が売りのはずのEU各国は、外出制限の扱いに大きなギャップを生んでしまいました。フランスが5月10日までの外出制限を延長する反面、スペインでは一部緩和するなど、足並みがEU内で揃っていません。また、統一通貨ユーロの下、今回のコロナウイルスの感染拡大による影響への対策としてEUが「コロナ債」の発行を議論した際にも、ドイツとオランダの猛反対に遭い、2日間ぶっ通しで議論しても、世界的危機に対してEUとして連帯することは叶わず、結局、加盟国ごとの対応に委ねるという結果になってしまいました。

大げさかもしれませんが、今回は本当にEUそしてユーロが終わってしまうキッカケになってしまうのではないかと懸念しています。

国際協調、グローバリズムといえば、世界経済はどうでしょうか。G7各国、G20各国、IMFなども続々と金融・財政拡張の策を提唱していますが、残念ながら、これまでの危機とは違い、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によってもたらされた世界的な危機は、金融・財政拡張では救えないと思われます。

その理由は、2008年のリーマンショック後、G20の誕生や中国による4兆元の財政出動などもあり、国際協調の基盤はできましたが、その後、10年以上にわたりダラダラと続けられた財政拡張と金融政策ゆえに、各国ともに万策が尽き、財政的にも実際には余裕がない状況に陥っているからです。また、グローバルな対応が今こそ必要とされますが、制度・規則・法律の違いが、迅速かつ協調した対応の壁になっていると思われます。

それゆえでしょうか。IMFは4月15日、「2020年の世界の経済成長率は久々にマイナスを記録し、少なくとも2019年度比マイナス3%になる」との予測を発表しました。アメリカや日本はおよそマイナス6%という予測も付け加えられており、結果として世界経済は、COVID-19による世界的なロックアウトを受け、1年で5兆ドル以上の価値を失うと言われています。これに対して各国は世界のGDPの1割にあたる8兆ドル程度の財政出動を行うとの算出結果がありますが、これが効果を示すには、奇跡的なスピード感が大事ですが、実際に出動されるにはかなりの時間を要するものと思われます。

その対応の“遅れ”は、世界中で大量倒産と失業を招き、それが経済回復の基盤を破壊することに繋がるため、予想以上に経済の回復には長期間を要することになります。

もし、そこに途上国からの資金の流出という事態が重なれば、世界至るところで債務危機に陥る国々が増え、1997年の世界金融危機や2008年のリーマンショックの比ではないレベルのショックが発生する可能性があるようです。新興国(途上国)の対外債務については、4月15日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議が、「少なくとも2020年末までの対外債務猶予」に合意し、実際、新興国の対外債務の半分以上を占める中国も同意したことで希望が持てそうな雰囲気はありますが、まだまだ世界経済の行方は明るいとはいえないでしょう。

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