コロナ患者の命そっちのけ。それでも厚労省が守りたがる「制度」

 

さて、コロナのPCRもそうですが、一般的に日本で医療関係の検査の実施や分析を行う仕事は、「臨床検査技師」という専門職が担っています。国家資格ですから、国家試験をパスしなくてはなりません。また、試験の受験資格には指定された学位が必要なので誰でも勉強すればなれるわけでもありません。

非常にザックリ言えば、全部で20万人ぐらい有資格者があり、そのうち半分弱の9万人ぐらいが稼働しており、そこに毎年3,000人ぐらいが試験に受かって加わる一方で、定年で同じぐらいの人が引退するという規模となっているようです。

では、資格さえあれば戦力になる、つまりコロナ危機の現在となると足りない分は臨時に加わることができるのかというと、そう単純ではないようです。ここからは、憶測を含みますが、まずウィルスの有無を判定するというのは遺伝子検査になります。これは専門性が高い、つまり検体の扱い方、機器の扱い方、そして最終的な判定の仕方などで熟練を要するのです。現場からは「2年の経験がないと難しい」という意見もあるようです。

ということは、例えば引退した団塊世代のベテランに戻ってきてもらって衛生研究所などに臨時の戦力にというのは、難しいとされています。また、この「臨床検査技師」ですが、「残業が少ない割に、正規雇用として地位が保障されている」という職種という側面もあり、実は女性が70%位を占める職場でもあります。ですから、男尊女卑の続く日本社会で女性が「家事と両立」できるとして入ってきているケースが多いのです。ということは、分析業務を時間外にこなすとなると、相当に無理の出る組織ということもあります。

さらに言えば、資格を取るために大学もしくは専門学校で専門的に勉強することが必要ということは、一つの特権になります。ですから、仮にコロナ危機が収束した場合に、余剰人員が出てしまい、その結果として正規雇用が非正規になったり、ということは当事者も、また監督官庁の厚労省も絶対に阻止したいと考えているはずです。

それ以前の問題として、陽性か陰性かを判定するという、重要な業務を背負っている以上は、その任務を遂行できるのは自分たちしかないという良くも悪くもプライドが支えている職場であるとも言えるでしょう。一方で、処遇はそんなに良いわけではなく、正規雇用ではあるものの年収は平均400万、但し正規雇用なので最初は思い切り安いが、長く勤めるとアップするという極めて日本型の体系になっています。

一方で、実は法律の上でこの臨床検査技師は「業務独占」にはなっていません。まず、上位資格である医師はもちろん、看護師も同じように検体採取と分析をやっても何の問題もありません。それどころか、実は医師や看護師とは違って無資格者が同じような業務を行っても、違法にならないケースが有るのです。

という状況の中では、厚労省としては今回のコロナ危機において、できるだけPCR検査を増やして人命を救うことよりも、また国家として危機の出口戦略を明確にし、国際的な信用を確保することよりも、この「約9万人の臨床検査技師集団」が安定して働ける制度と現実を「何が何でも守り切る」ことが至上命題になっている可能性があります。

では、彼らは悪意から既得権を擁護する守旧派としてダークサイドに落ちたのかというと、それは違うと思います。そうではなくて、そのように安定的な制度、組織として「臨床検査技師」という専門集団を維持していくことが国益であり、また人命を守ることだと固く信じている、そんな可能性を感じます。

けれども、残念ながら今は平時ではありません。そうではなくて臨戦態勢を組んで人命を救い、社会と経済を救い、国際信用を維持するためには例外的に柔軟な対応をする時期なのです。政治に無理なのであれば、ジャーナリズムが立ち上がって、そうではないんだ、とにかく今は組織の維持よりも優先すべきことがあるということを訴えていく、それが大切ではないかと思うのです。恐らく、現場の臨床検査技師の一人ひとりも、大変さの中でそう考えているのではないか、そのように思うのです。

それ以前の問題として、総理にしても、大臣にしても、現実の把握もできていないままに、官僚に操られるだけ、そのために言葉に説得力がないので、尾身博士とか西浦博士にリスク・コミュニケーションを丸投げして恥じることもない、これはやはり国家的危機だと思うのです。

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