縦割りの弊害。大学がPCR検査の協力志願も実現できぬ呆れた理由

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PCR検査を一手に引き受けざるを得ない状況に置かれている全国の保健所が、圧倒的な人手不足で崩壊寸前にまで追い込まれています。日本の防疫の砦は、なぜこのような状況に置かれるに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、著者で健康社会学者の河合薫さんがその理由を探るとともに、国のスピード感のない対応を強く批判しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年5月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「まずは保健所へ」という厚労省の怠慢

全国保健所長会の内田勝彦会長らは、オンラインによる記者会見を行い、全保健所を対象に行った緊急アンケートの結果を報告しました(調査期間は3月25日~4月22日)。

調査結果によれば、過労死ラインの月80時間を超える時間外労働が頻発し、土日の半日だけを休む以外はぶっ通しで働き、利用者から「電話がつながらない」「PCR検査が受けられない」などの不満や誹謗・中傷を浴びている過酷な労働状況が明らかになったといいます。

「とにかくマンパワーが決定的に不足している。いまは本当に人がほしい」と内田会長が窮状を訴えたように、とにもかくにも「人」が足りないのです。

人手不足のそもそもの原因は、1994年の行政改革で全国の保健所を徹底的に削減したことにあります。1992年に全国852カ所にあった保健所は、2019年には472カ所と、実に45%も削減(厚生労働白書)。国は運営費助成金を削減して自治体に保健所業務の一部を肩代わりさせるとともに、保健所の広域化と統廃合、さらには人員削減を進めました。

件の会見によれば、感染症を扱う保健師は人口40万人規模の東京都葛飾区でたったの4人、大阪府枚方市でも5人しかいないとのこと。その少ない人数で、コロナ感染の電話相談に加え、検体運搬、感染疑いのある人の経過観察、感染経路や濃厚接触者の調査までの業務を行っているそうです。

コロナ感染拡大が始まった当初から、「PCRが受けられない」「なぜもっとできないのか」という不満が相次ぎ、専門家の先生たちも「保健師の補充、人員を増やすことを早急にやってほしい」と国に訴えてきました。しかしながら、厚労省は地方自治体に「通達」を出すばかりで、具体的に動くことはありませんでした。

その結果、自治体ごとに対応が異なり、余裕のある自治体では他部所からヘルプが入りましたが、そうでない自治体では「電話が鳴り続けているのに誰も出ない」という異常事態が発生。人を雇いたくてもカネがない、国からの補助金も出ない。しかも、保健所の保健師さんは、母子保健や精神保健福祉に関する仕事も行っているので、それらの業務が手薄になる心配もありました。

さらに、厚労省はPCR検査の民間委託や、大学にお願いすることも行いませんでした。一説によれば、コロナ対策は厚労省の管轄ですが大学は文科省の管轄のため、大学側が「手伝います!」と志願してもできなかったとも報じられています。

つまり、厚労省は何ら「そもそもの問題」を解決することなく、「感染が疑われる場合は、まず最寄りの保健所へ」と言い続けた。

そして、コロナ感染が疑われる人たちは医療機関をたらい回しにされたうえ重篤化してしまったり、検査が受けられないケースが多発し、保健師さんたちが誹謗中傷を受けるという、理不尽が生じてしまったのです。

…んったく。こんな緊急時でも「お上のお達し」と「縦割りの弊害」が出ているとは。情けなくなります。

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