開戦前夜の外交戦。中国の報復に「小型核」で応じるアメリカに死角はないか?

 

コロナと共に世界経済の回復を妨げているのが、安全保障面での米中対立の激化です。

先週号(「『台湾併合?ならば戦争だ』中国に激怒のトランプが蔡英文に送った親書とは」)でも北京が台湾侵略を企てるのであれば、トランプ大統領としては開戦止むなしという話についてご紹介しましたが、アメリカ政府はあの手この手を使って中国の軍拡と覇権的影響力の拡大を阻止したいと考えており、南シナ海をはじめ、東シナ海、尖閣周辺海域、アフリカ・エチオピアを中心とする東アフリカと中東地域海域で常に中国と対峙する形になってきています。

その背景には、国家資本主義による豊富かつ潤沢な資金を集中的に軍拡に投入している中国の姿と、間違いなく近代化してきている中国の軍備に対するアメリカや欧州、日本、そして南シナ海周辺諸国の焦りが見えます。中国の核戦力は間違いなくその威力を伸ばしていますし、空母を中心とする攻撃群、弾道ミサイルを発射できる最新鋭の爆撃機の配備拡大、ロシアとともに早期の導入を目指す極超音速型の弾道ミサイルシステムの存在、そしてレーダー探知が非常に難しいとされる最新型の潜水艦など、米本土への攻撃能力が格段に上がっているようです。

またミサイル技術は、中国とロシアから北朝鮮に提供されているともされ、昨今、金正恩氏が軍備増強を謳った中に、変則弾道型のミサイル開発と配備が入っていたことで、従来の迎撃ミサイルを無力化する恐れが出てきたことから、アメリカはもちろん、日本にも緊張感が高まっています。

その表れでしょうか。米軍とトランプ政権は、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)に小型核弾頭を搭載し、潜水艦群をアジア太平洋海域に配備する見込みと発表しましたし、これまでグアムを中心に交替で投入してきた戦略爆撃機の管理を米国本土で一括管理し、B52、B1、B2などの戦略爆撃機を総合的に運用し、予測困難にするという戦略的な変更も行っています。そして明らかに中国への断固としたメッセージと捉えられるのが、台湾に対してF16戦闘機を一気に48機売却し、即時配備を行うことで、対中最前線における攻撃力を高めています。これはトランプ大統領周辺が口にする【もし台湾への攻撃が行われたら、米軍は中国への攻撃を実行する】という脅しの表れと言えるでしょう。

加えて、最新型の極超音速弾道ミサイルなどへの対応を急ぐべく、日本と共に、日米の小型衛星のネットワークを用いた捕捉とレーダー追尾を実施すると発表し、日本も参加の可能性に言及しているFive Eyesの監視システムによる中国(と北朝鮮・韓国)の監視を強化する最終段階に入ったとされます。また今週の報道にも出ていましたが、米国を中心としてリムパック(10か国による軍事演習)も、規模を縮小はしたものの、明らかに対中警戒のための軍事的な連携を念頭にハワイ周辺海域で開始されました。台湾、南沙諸島、西沙諸島などでの中国との交戦をイメージしているような実践的な内容に絞られているようです。今回のリムパックの内容を知る情報筋によると、雰囲気はまさに対中開戦前夜と言えるほどの緊迫感が漂っているそうです。

実際に米中の交戦となるかどうかは分かりませんが、その恐れと可能性は、確実に各国の動きを鈍らせ、それは各国における経済活動の回復にもネガティブな心理的影響を与えているようです。

「ただでさえコロナ禍で大きなダメージを被っているのに、これで米中交戦となれば経済の回復に水を差す。今、大きく劇的な策を講じるよりは、しばらくは様子を見たほうがいいのではないか」

そういった心理が各国政府の中枢にあるように思われます。

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