世界が感嘆した「日本流交渉術」なぜ日本人は海外要人を操れるのか?

 

非常に厄介で、かつ強力な交渉

しかし、実際の“国際”交渉の現場ではどう思われているかご存じでしょうか。すべてではありませんが、多くの場合、日本(人)の交渉スタイルは、理解しきれず、都合の悪いところは上手に交わすことが出来る【非常に厄介で、かつ強力な交渉】というように見られています。

例えば、商談の際に、欧米企業の交渉官からすると「よし、これでほぼ内容に合意ができたぞ。あと一押しだ!」と思ってニコニコしていると、日本側から「では、内容については上の者に(本社の重役に)相談したうえで、お返事いたします」という返事が返ってきて唖然とするというケースが多くあります。

最近では、さすがに日本の特徴をしっかりと研究していたり、日本側も欧米型の交渉スタイルを取り入れたりしているので、その認識・思考のギャップは狭まっていると感じていますが、今でもこの【本社に諮ったうえで、またお返事いたします】は、相手を天国から地獄に叩き落す心理効果があるそうです。

政府間交渉でもよく見かけるこのケースですが、この際に用いられる「本省と協議の上」的な切り返しは、多くの交渉の場合、同じく脅威や不安を相手の心理に埋め込む効果があるようです。

それを避けるためでしょうか。

以前、私がまだ日本政府にいて気候変動交渉でいろいろな案件を一手に引き受けていた際、アメリカ国務省の国務次官補(その時の交渉団長)から「I’m the Washington DC. I have the authority to say yes or no now. Can you do the same?(俺がワシントンDCだ。この場で決定を下す権限を与えられている。お前はどうだ?)」とすごまれたことがありました。

もちろん私にそんな権限が与えられているはずなどなく、通常ならば怯んでしまいそうですが、私はニコッと笑って、「すばらしい。であれば、こちらから出す提案に対してもこの場でYesかNoかお答えいただけるということですよね?すぐに東京のdecision makersに繋いでお伺いを立てることが出来る人たちに連絡をするので、しばしお待ちを。私は今、ここでYes or Noはお伝え出来ないが、それを決めることが出来る人とそこへのアクセスラインは知っている。2週間も待てたんですから、もう少し待てますよね?」と答えました。

実は私自身、どう言ったか定かではなかったのですが、この元国務次官補の方がこのやり取りをとてもよく覚えていまして、最近話した機会に懐かしく話してくれました。

彼曰く、「あの一言で形勢を一気に逆転された。そのまま押せば、アメリカ政府からの出資は抑えつつ、日本政府からもっと資金を提供してもらえると思ったが、見事にはぐらかされた。『で、結局どうなるんだ?』と交渉団の中でも話題になり、実際に答えをもらうまでは大騒ぎだったんだよ」とのことでした。

日本的な交渉術がポジティブな武器として作用したよい例ではないかと手前味噌ながら思います。

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