世界が感嘆した「日本流交渉術」なぜ日本人は海外要人を操れるのか?

 

【地獄が凍るまで私は動かない】作戦

同じようなケースは、民間企業のコンソーシアム(日本サイド)と相手国政府との間の紛争の調停でも役立ちました。起こっていた問題の責任は、相手国政府の曖昧な態度とコロコロ変わる政治的な判断にあるのですが(そして支払いを拒否した)、その際、困っているはずの日本サイドも、いったい誰がコンソーシアムも決定権者であるのか分からず、相手国政府から次々と打ち返される回答にすぐに答えることが出来ませんでした。

先ほどのI’m Washington DC的なことを、実際に私も紛争調停の際には使うのですが(『私にはここで決定を下し、署名する権限が与えられていますが、あなたはどうですか?もしその権限がないのであれば、ある方が出てこられるまでは、これ以上議論はいたしません』という発言ですが、覚えていらっしゃいますか?)、このケースでは、この【誰が決定権を持っているのか分からない。もしかしたら誰も持っていないのではないか】という、欧米的な交渉術では避けるべきと考えられる状況を逆手に取ることにしました。

実際にはコンソーシアム内での議論に手間取っていて、なかなか意思調整が出来なかっただけなのですが、それを“不気味な沈黙”というように演出し、相手を不安にさせる作戦に出ました。

「提案をしたけれど、待てど暮らせど答えが来ない」

そういう心理状態に相手を追い込み、頼んでもいないのに、沈黙を破るために勝手に向こうからいろいろと妥協案を出してきました。実際には、何とも言えない組織間の力関係ゆえ、また決めることが出来ない時間が必然的に生まれるのですが、実際にはコンソーシアムサイドに次第に有利な内容に提案が変わってきました。

これは「相互の提案内容がかけ離れており、簡単には歩み寄ることが出来ない状況に陥った際、または、先方の要求内容が明らかに常識を逸している内容である場合、こちら側の要求内容を整理し、はっきりとした形で立場の表明をした後はひたすら黙り括る」という応用編の行動心理学を用いた交渉術に繋がります。

この戦略は、説明が難しくなりますが、私が交渉術のトレーニングをする際に用いる表現では【地獄が凍るまで私は動かない】作戦と呼んでいます(キューバ危機の際、国連安保理の場でアメリカの大使だったアドレイ・スティーブンソン氏がロシア大使に用いた表現で、“アメリカは絶対に退かないぞ”との覚悟を示したものがオリジンですが、その後、相手から不条理な内容を突き付けられた際、what if作戦と共に、よく用いる作戦をこう名付けてみました☆)。

なかなかここまでの覚悟を決めて、梃子でも動かぬ!と我慢比べをするのは大変ですが、これまで私自身いろいろな面白いケースを日本の企業や団体とご一緒させていただいて見えたことは、日本側のほうが比較的にこの我慢比べに強いということでしょうか。多くの場合、相手側が業を煮やしてほぼ自動的に妥協ゲームをスタートしてくれます。

そのような際、私がクライアントにアドバイスするのは、ひたすら【うーん…】と唸っていてください、ということです。

提案内容が受け入れ可能なのか否かについてははっきりさせず、あくまでも“考えている”“吟味中”“難しい”“ん?もう一歩!”と、どうにでもとれるように振舞ってもらうようにしています。【これでよし!受け入れ可能だ!】となったら、一気にYESと言って決めてしまってもOKですよ、という作戦です。

もちろん、ここで【本社に確認のうえ、最終的なお返事は…】を交えると相手はズッコケますが、もしそうするならくれぐれも気を付けてください。それが通用するのは、相手がこの案件での合意を何が何でも得たいという心理が強く働いている時のみです。

もしそのような状況でないなら、【今回の合意内容を互いに記し、確認後、基本合意としたい。ただし、こちらにも事情があり、最終決済は本社・本省で行うことになっているため、そのプロセスを急ぎ踏みたいが良いか?】という説明をした上で、一旦仮合意をして交渉をまとめるというのも大事な作戦かと考えます。

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