■不況さらによし
また松下さんの言葉を引き出します。「好況よし、不況さらによし」で、こんなことを続けて言っています。「どんな人でも毎日おいしいものを食べていると、そのありがたみが分からなくなる。それと一緒で、うまく行っているとどうしても安易になる。人間は弱いものである。そこへ不景気が来るとガタンとなる。ですから、3年に一度ぐらいちょっとした不景気が来る、10年にいっぺんぐらい大きな大きな不景気がくる、ということは、かえって身のためだといえるのではないでしょうか」なのだそうです。
そして「要は、好、不況にかかわらず、日ごろから、商売の本道をふまえ、一つ一つの仕事をきちんきちんと正しくやっていくよう努めること。そうすれば好況よし不況さらによしということになると思うです」と。
とは言え、HISの今回の状況は“不況”と言った生易しいものではなく、屋台骨の再構築という起死回生策を見つけ出さなければならない。しかし反面、革新(イノベーション)を行うための人材は休業を余儀なくされているので有り余るほどいて、まさに絶好機でもあります。そんななかでHISの澤田秀雄さんは、どのように行動しているのか。
「動くことと進むことは違う」「失敗する罪よりも行動しない罪の方が大きい」「リーダーの地位にあるものにとって重要なことは、なされることを考えることである。そしてそれが何であるかを全員に理解させることである」はドラッカーの見解です。HISでは、それがまさに進行形で進んでいます。
社員には「リストラ」をしないことを告げています。だから、全員にとって自身の糧と運命共同体の存続を可能にするには個々が必死になって、よりよき革新に貢献することしかありません。その時機を踏まえて、澤田秀雄さんが行ったのは、全社員に対して、この危機を機会にするためのアイディアを求めました。