いかがでしょうか。裁判の内容からは「なぜ60%ならOKなのか」というのは少々わかりづらいようには感じましたが、数字的な目安ができたのは実務的には非常に参考になるでしょう。ただし、実務的には次の2点については考慮が必要です。
1つ目は「60%」というのはひとつの目安であり、法律上、60%であれば絶対に問題無いという意味ではありません。例えば、残業代であれば25%割増というのが法律で決まっているため、25%支払っていれば絶対に問題無いです(もちろん、就業規則等にそれ以上支払うと記載されている場合や、深夜残業、60時間以上残業、等々の場合は除きますが)。
ただ、今回の60%はあくまで判例です。よって、この判例をもって一方的に、強引に、60%に減額することはおススメいたしません。今回の裁判でも「会社と社員との話し合いが充分ではなかった」というのが不合理の判断の一つにもなっていますのでこの判例を60%の根拠にしつつも、丁寧な話し合いが必要でしょう。
そして、2つ目が「そもそも定年後の減額は必要か」という視点を持つことです。通常は減額する理由として総額の人件費を抑制するというのがもちろんあるのだと思いますがそれに加えて多くの会社では、「いやいや定年後の再雇用をしている」というのもあるように感じます。
「本当は再雇用なんかしたくない」
↓
「でも、法律上しなくてはいけない」
↓
「だったら、給料は下げよう」
という考えです。ただ、給料が下がれば当然ながらモチベーションも下がります。本来であれば戦力になったはずの人も戦力外になってしまう可能性もあります。
法律論とは少し話が外れますが人事政策において「マイナスな現象」を「ネガティブな対策」で解決できたという話は聞いたことがありません。例えば、入社してもすぐに辞めてしまう早期退職(マイナスな現象)で悩んでいた会社があったとします。これに対し、どうせ早く辞めてしまうからと
- 最初は社員ではなくアルバイトで採用する
- 試用期間は極端に給料を下げる
- 試用期間を長くする
- 試用期間中は社会保険に入れない(これはもちろん違法です)
など(ネガティブな対策)をおこなっている会社は結構あります。ただ、それらで早期退職が解決できたという話は一社も聞いたことがありません。もちろんそれらを全否定するつもりはありませんし、気持ちはわかります(なにより私自身が早期退職で相当悩まされた人事担当者でしたので)。ただ、もし早期退職を解決するのであれば「どうせ辞めるから」というネガティブな対策よりも「どう辞めさせないか」というポジティブな対策が必要なのではないでしょうか。
定年後の再雇用についても同じことが言えます。いかに「定年後も会社の戦力として働いてもらうか」と考えたら、安易に給与を減額なんかしている場合ではありません。全く同条件とまではいかなくても評価制度などを導入して頑張り次第ではそれ相応の給与がもらえるようにするとかいろいろできることはあるでしょう。
実際にそうしている会社はすでに「開始して」います。みなさんの会社でも検討してみてはいかがでしょうか。
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