ホンマでっか池田教授が探る「贈与と権力」奢りたい人の心理とは

 

特別な頼み事がある場合は別にして、下の人が上の人に贈与をすることはまずないということは、最初は対等だった人の片方が贈与をする人で、もう片方が贈与をされる人であれば、暫くすると前者の立場が後者よりも強くなることは避けられない。別言すれば、自分の方が優位に立ちたい人は、贈与をしたくなるということだ。デートをして、男性が女性に奢るのは優位に立ちたいからで、奢ってもらうのは絶対嫌だという女性は、対等の立場を貫きたいのである。

現代では権力は複雑に分散されていて、贈与するされるという行為と、公的な権力は直接的な関係を持たないが、私的な所では贈与と権力は密接な関係があることは間違いない。貨幣経済以前の社会においては、私的な権力ばかりでなく、社会的な権力もまた贈与と強く相関していたと思われる。

北アメリカの太平洋岸北西部の先住民族社会では、ポトラッチと称する贈与儀式があり、裕福な家族や部族の指導者が、招待客を祝宴でもてなし、様々な財を贈与する。一族の地位は所有する富の規模ではなく、ポトラッチで贈与する富の規模で決まったので、高い地位に就きたい者は競って富を蕩尽したのである。

最初は、ポトラッチの規模によって社会的地位が決まるにしても、社会的な地位がある程度固定されると、ポトラッチを行わなければ地位を維持できないので、ポトラッチはObligatoryになったと思われる。フランスの文化人類学者のマルセル・モースは、ポトラッチのシステムを分析して『贈与論』(原著1925年発行、邦訳も複数ある)を著し、ポトラッチには3つの義務があるという結論を導いた。与える義務、受け取る義務、返礼の義務である。

「与える義務」からポトラッチは始まると言ってよい。この義務を遂行しない者は、社会的地位を築けない。送られた者には「受け取る義務」があり、受け取らなければ、敵対関係になることを覚悟する必要がある。返礼品を送らなかったり、自分の地位に見合った返礼品を返さなければ、社会的地位を失ったり、劣位になったりするので、社会的地位を維持したければ、返礼はObligatoryになる。

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