AIが人の表情を数値化。仕組みの進歩は社会の発展に繋がるのか?

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コロナ禍でリモートワークをしてみたら、コミュニケーションの難しさを感じたという話をよく見聞きします。その課題を解決すべく、AIが人間の表情を読み取るなど、さまざまな仕組みが開発されています。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、数年前に障がい者就労支援の現場での活用をイメージし、AIによる笑顔測定の開発に関わったという著者の引地達也さんが、仕組みの進歩への複雑な思いを綴っています。

リモートワークで進歩するコミュニケーションの中で

新型コロナウイルスの対策としてリモート業務が推奨される中にあって、その仕組みも「進歩」「発展」の中で新しいコミュニケーションの形がどんどんと社会に広がっている。それが社会の発展なのか、コミュニケーション行為の進展なのか、私たちの幸せにそれらが本当につながっているのか、ということを考えると、立ち止まりつつ考える必要性を感じている。

それは私自身、支援活動をする中で、コロナ禍の影響で外に出られない人、特に感染リスクの高い重度障がい者にとっては、安全な場所にいることがなおさらに求められるから、その場所で支援を受けることを前提にして、社会や周囲とコミュニケーションを維持しながら、社会に接していく必要がある。本当に豊かなコミュニケーションに向けて緊急事態の中で冷静に「進歩」「発展」とどのように付き合っていくかも課題だ。

最近の経済トレンドを伝えるニュースでは、リモートワークに関する開発が次から次へと紹介されている印象がある。それぞれが在宅で仕事をしながらもアバターを使ってあたかも同じ空間にいるような感覚でコミュニケーションが出来る仕組みや、リモートの会議の会話のやり取りを見える化し、誰が誰にどのくらいの割合で反応しているかなど。会議の際に出席者の顔の表情をAIが読み取って、即座に「肯定的な表情か」「否定的な表情か」がパーセンテージで示されるものもある。

人と人のコミュニケーションは顔を見てその表情を読み取りながら、進めていくという基本から、それが数値化されると、顔を見ることなく、その数字ばかりに気を取られてしまって、数字と対話することになるのではないかと、懸念もするが、数年前の「懸念」が今や日常になっているケースは多い。だから、うまく活用することを考えたほうがよいかもしれない、など逡巡する自分がいる。

という私は数年前にAIによる笑顔測定の開発に関わったことがある。障がい者就労という枠組みで支援をする中で、面接の対策や職場でのコミュニケーションにおいて「笑顔」は重要であるが、その笑顔のやり方がわからない、という人がいる。特に愛想笑いや人への親和的な態度としての笑いは、障がいの特性によってはまったく理解できない人がいる。

そのために、数値化することで、社会一般が受け入れられる「笑い」を身に着けるのはどうだろうという発想であるが、もちろん、これは社会に適合させるための、「とりあえず」の策。その数値化されたところから、本来のコミュニケーションの場で相手の反応を得て、真の笑顔を獲得していくというプロセスのきっかけではあるが、これまだ道半ばである。

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