ウソ吐きG7で東京五輪開会式への参加を促す、菅首相の「恥晒し」

 

「一帯一路」を打ち負かす?

「米国が主導する形で、インフラ投資のための新しい資金支援制度で合意した」(13日付読売)も成果とされる。「米政府高官は『質の高い選択肢を示すことで、中国の「一帯一路」を打ち負かせると信じている』と強調した」(同上)。

一帯一路構想とそのためのAIIB(アジアインフラ投資銀行)がいろいろ問題を含んでいる、まだ発展途上にある仕組みであることは広く知られているが、だからといって、これが途上国を債務危機に追い込んで無理難題を押し付け、最終的には全世界に中国の軍事施設を広げていくための暴力団経営の悪質サラ金のような邪悪な意図から運営されているなどと言うのは、神経衰弱的な誇大妄想にすぎない。

途上国への投融資の公認された仕組みとしては、戦後に米国が作り上げた世界銀行=国際通貨基金(IMF)がある。その世界銀行は米国出身の総裁と4人の専務理事が執行体制の中心だが、その1人は中国出身のシャオリン・ヤンで、彼は米国の大学で修士号を得、中国財務省で国際金融経済協力関係を担当し、ADB(アジア開発銀行)の中国代表代理を務め、AIIB設立に関しては中心的な役割を果たし、現在もAIIB理事会の要職を兼任している。世銀の現在の出資比率は、米国15.85%、日本6.84、中国4.42である。

またIMFは、伝統的に欧州出身者による専務理事を代表とし、それを4人の副専務理事が支えているが、そのうちの1人はタオ・ジャンで、彼は米カリフォルニア大学サンタクルズ校で国際経済で博士号を得た後中国人民銀行、世銀、ADBで長いキャリアを積んだ国際金融の専門家である。

この2人の経歴が示しているように、中国はADBでも国際投融資の専門家としてのキャリアを積んでいて、世銀、IMF、そのアジア支所とも言うべきADBと中国とが何やら敵対的な関係にあるという想定は根本的に間違っている。事実は真逆で、中国は今では戦後米国主導で作られた世銀=IMF=ADB体制の下で日本や欧州と肩を並べるほどの出資者であり、またそれに応じた執行体制の中枢の担い手なのである。

従って、中国の側から見れば、そのように米国主導の戦後金融秩序の象徴とも言える世銀=IMF=ADB体制に資金も人材も提供して協力を尽くしてきた上で、さらにその先にある需要を掘り起こすためのプラスアルファのインフラ投資システムを自力で作り出そうとしたのが一帯一路構想だったのだろう。しかもそれは、長年の悩みであった国内経済の不均衡解消のために同国の北と西と南の辺境に新しい投資機会を生み出すという一石二鳥の策でもあった。それを、戦後秩序を引っくり返そうとする中国の覇権主義的野望とか言われてしまうと、たぶん習近平とすれば「何のこっちゃ?」と唖然とするような話なのだろうと推測する。

そういう訳で、世界的な問題は、どう中国と折り合いを付けながら、その力を上手に活かしつつ共に解決に当たるよう仕向けなければならないはずなのに、それを頭から「中国が怖い」という仮想起点から説き起こすと、「あれも危ない」「これも怪しい」とすべてを疑うような怪奇的な話になってしまう。

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