心理学者が解説。人間が左右されるのは「第一印象」か「最新の情報」か

 

【最後の発言者】

これに対して、「新近効果(recency effect)」とは、幾つも提示された情報の中で、最後に提示された情報が最も印象に残り易いというもので、「終末効果」などとも呼ばれます。

人は最も「新しい」情報に左右され易いということから「新近効果」と命名されました。

米国の社会心理学者アンダーソン(Norman Henry Anderson 1925~)が1970年代に行った実験研究によれば、5人対5人のディベート(討論)を毎回テーマを変えて300回行い、評価を重ねた結果、最後の発言者の主張が支持されたケースは74%にも上りました。「最後の発言」が支持されやすいのです。

紛糾する会議などで、それまで黙っていた人物が、突然、最後に意見を言うと、結局、その最後の発言者の意見でまとまってしまう、そんな映画やドラマを見たことはありませんか。これは、フィクションの世界だけでなく、現実の会社の会議などでもよく起ることです。私も、大学の教授会で、似たようなシーンを何度も見てきました。大物の政治家や財界人などが会議の最後に発言したがるのも、経験的に「新近効果」の有効性を知っているからでしょう。

最後の発言者は、それまで出た意見の良いところを吸い上げることができますし、「〇〇さんも、ご指摘の通り」といった具合に、それまでの発言者に敬意を払うことにより印象も良くなり、それまでの議論をまとめやすくなるのです。

昔、教授会でこの「新近効果」を逆手に取る教授がいました。最後に実力者の学部長が意見を言って、その線で議事がまとまりかけている時に、その教授はおもむろに手を上げます。

「ちょっと、よろしいでしょうか」

それから長々と反対意見を述べるのです。こうなると、議事は再び紛糾して、収拾が付かなくなります。

まあ、「新近効果」の争奪戦ですね。このように、教授の意図は見事に達成されるのですが、その人の評判の悪いことと言ったらありませんでした。

【どちらも正しい】

さて、先にご紹介した「初頭効果」は最初に提示される情報の影響力が強いことを指摘しており、次の「新近効果」では、私たちの判断が一番最後に提示された情報の影響を強く受けやすいことを指摘しています。

「初頭効果」と「新近効果」は矛盾するのではないでしょうか。いったい、どちらが正しいのでしょうか。

答えは、「どちらも正しい」のです。

抽象的な言葉のレベルで「初頭効果」と「新近効果(終末効果)」を見比べると相反する法則のようにも感じられますが、問題は、それぞれの法則がどのような心理現象に影響を与えているのかという点です。

「初頭効果」は「印象形成」に影響を与えています。これに対して、「新近効果(終末効果)」は「判断」に影響を与えています。両者の影響する心理現象は異なるのです。

ですから、単純な「記憶」という心理現象を対象にして実験を行えば、どちらの効果も同じように現れてきます。

幾つもの単語を順番に記憶して、一定の時間後に再生すると、単語が並んでいた順番により「再生率」に変化が生じます。これを「系列位置効果」と呼びます。再生率が順番によってどのように変化するかといえば、大方の予想通り、最初に憶えたものと最後に憶えたものの再生率が共に高くなるのです。ですから、記憶の再生率についていえば、「初頭効果」も「新近効果(終末効果)」も、共に認められるということになります。

テスト直前の丸暗記(最後のあがき)がそれなりに有効なのは「新近効果」が影響していますし、初めてのキスが忘れられないのは、「初頭効果」のたまものでしょう。

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