池田教授が考える、気象を「思いどおり操作したい」は尊大な夢か?

 

最も顕著な例はアラル海の消滅だろう。アラル海は1960年頃までは湖沼面積6800平方キロメートル(日本の東北地方とほぼ同じ面積)を誇る世界第4位の湖だった。天山山脈からシルダリア川の、パミール山脈からアムダリア川の、二大河川の雪解け水が流れ込み、年間降雨量200mm未満の砂漠の中にあり、流出する河川がないにもかかわらず、塩分濃度は海水の3分の1という汽水であった。

そのために淡水産と海水産の魚種が入りまじり、漁業が盛んでサケやチョウザメをはじめとして、年間4~5万トンの漁獲高があった。シルダリア川とアムダリア川の河口の湿地帯にはペリカンやフラミンゴなどの渡り鳥が群れていた。状況が一変したのは旧ソ連時代に、両河川を綿花栽培のための灌漑用水として利用し始めてからである。綿花の収量は上がったが、灌漑設備や灌漑水の利用法が杜撰だったため、灌漑水が両河川に戻ることはなく、1960年を境にアラル海の水位は急激に低下しはじめたのである。

アムダリア川の河口は干上がって、アラル海に水が流れ込まなくなり、塩分濃度は1980年代には海水に近づき、在来魚種はほぼ絶滅した。高濃度の塩分に耐性のあるカレイを導入することで、漁業は細々と続いたが、塩分濃度の上昇は止まらず、漁業はほぼ壊滅して、9割の漁民はこの地を離れ、いくつもの村が廃村になった。干上がった湖底から砂嵐が舞い上がり、塩分や有害物質が住民の健康を害している。

大きな湖は気候を緩和するバッファーとして働くため、1960年に比べて10分の1の面積にまで減少したアラル海の周辺では夏はより暑く、冬はより寒くなってきた。頼みの綱だった綿花栽培も塩害が発生して、収量を減じている。自然は人間の思い通りになるわけではないという典型例である。民主主義国家であれば、アラル海周辺の漁民から損害賠償の訴訟が起こされたに違いないが、独裁国家であった旧ソ連では、責任は有耶無耶になってしまったのだろうね。原発事故を起こした日本でも、責任は結局うやむやにされたまま、またぞろ、原発再開という話が持ち上がっているところを見ると、日本も実は独裁国家なのかもしれない。

人工降雨に話を戻すとして、森林を燃やすというアイデアの次に出てきたのは、空に向かって砲撃を繰り返せば、雨を降らすことができるという説であった。実際にはこの方法は全く効果がないか、あったとしてもごく僅かな雨しか降らせなかったが、日照りで苦しむ農家や行政を騙して、金を巻き上げようと目論む詐欺師にとっては効果があった。その後、人工降雨の方法は徐々に進歩したが、人工降雨は恩恵ばかりではなく、損害ももたらすので、損害を受けた人たちは訴訟を起こすこともあったようだ。(続きはご登録ください)

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