【書評】なぜ宮崎駿はスタジオジブリを作らざるをえなかったのか?

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『千と千尋の神隠し』がベルリン国際映画祭金熊賞とアカデミー長編アニメ映画賞に輝くなど、世界が認める宮崎駿氏と、彼とともにスタジオジブリを牽引した高畑勲氏。その2人の天才の「手綱」を捌いてきたプロデューサー・鈴木敏夫氏の書籍が刊行から2年を経た今も話題を呼んでいます。今回の無料メルマガ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』』では、そんな一冊を引用を含めて紹介。ジブリアニメをもう一度見直したくなること請け合いの裏話も満載です。

【一日一冊】天才の思考 高畑勲と宮崎駿

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鈴木敏夫 著/文藝春秋

高畑勲と宮崎駿という2匹の猛獣をコントロールしてきたスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫さんがアニメ制作の裏話を教えてくれる一冊です。

著者の鈴木敏夫さんが宮崎駿と出会ったのは、徳間書店が「アニメージュ」の創刊準備をしているとき、鈴木敏夫さんが担当になってからです。

そして宮崎駿が「アニメージュ」で『風の谷のナウシカ』の連載を始め、この『風の谷のナウシカ』を原作として博報堂にいた宮崎駿の弟を巻き込んで映画化することになったのです。

ところが、どこの制作会社もナウシカの制作を引き受けてくれませんでした。宮崎駿と仕事をすると、完璧主義の宮崎駿についていけない社員が辞めたり、病んだりして、組織がガタガタになってしまうという理由で断られたのです。

結局、トップクラフトという会社が引き受けましたが、予想どおりナウシカの完成後、ほとんどすべての主要なアニメーターが退職してしまいました。

どこもナウシカの制作を引き受けてくれない…「宮崎さんが作るならいいものが作れるだろう…でも、スタッフも会社もガタガタになるんだよ。今までがそうだった」。完璧主義者と仕事をやると会社がダメージを受けるということです。(p23)

『風の谷のナウシカ』がヒットしたことで、次は『天空の城ラピュタ』を作ることになりました。当然のことながら引き受けてがいないので、自前でスタジオを作ることになりました。それがスタジオジブリなのです。

アニメの世界は、出来高払いなので適当にたくさん作ったほうが儲かる仕組みになっています。そのため宮崎駿のように、手間と時間をかけて精密な作画を作っていると、朝から夜中の12時まで作業を続けたとしても、生産量が半分になってしまうので、収入は月に10万円にしかならないのです。

手間をかけるだけ損をするのがアニメであり、宮崎駿はそうした環境の中で最高品質の作画にこだわる変わり者であり、天才だったのです。

スタジオジブリではそうした環境を打破するために予算を2倍にして月に20万円支払うことにしました。それでも20万円だったのです。

『魔女の宅急便』の制作費は4億円かかりました。1億円も行かない映画が多かった時代、それはすごい金額です。それだけ用意しても、宮崎駿の求めるクオリティで仕事をしていくと、出来高払いのアニメーター一人あたりの報酬はだいたい月に10万円。1年かけて全身全霊で仕事に打ち込んでも120万円にしかなりません。当時でいっても普通の仕事の半分ぐらい。(p97)

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