逆らう政治家は吊し上げろ?財務省「バラマキ批判」発表の大勘違い

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財務省事務方トップの矢野康治事務次官が、与野党による経済政策論争を「バラマキ合戦」と強く批判した記事が月刊誌「文藝春秋」に掲載され大きな話題となっています。なぜ矢野次官はこのような論文を寄稿するに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』では京都大学大学院教授の藤井聡さんが、そのウラ事情を探るとともに、そもそもこの「バラマキ批判論文」が間違いだらけであることを様々な資料を挙げつつ解説しています。

(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2021年10月9日配信分の一部抜粋です)

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矢野・財務省事務次官の「国家財政は破綻する」論文が間違いだらけであることを丁寧に解説いたします

この度、文藝春秋誌に財務省の現役の事務次官・矢野康治氏の「財務次官、モノ申す:このままでは国家財政は破綻する」という記事が発表されました。

この記事の主旨は要するに、次の様なものです。

まず、総裁選や総選挙における総裁候補や与野党の代表らによる「バラマキ合戦のような政策論」を聞いていると、「これは本当に危険だ」と憂いを禁じ得ない、これは「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」であり、「このままでは日本は沈没」してしまう。だから、「やむにやまれぬ大和魂」を持つ自分は、もうじっと黙っているわけにはいかない、「ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえある」と思うので、「心あるもの言う犬」「有意な忠犬」(一公務員)として、「どんなに叱られても、どんなに搾られても」

(a)プライマリーバランス黒字化目標(国債発効規制)を取り下げるな
(b)消費税減税は絶対止めよ
(c)10万円の給付金などの損失補償を、絶対止めよ

と、「勇気をもって意見具申」します、というものです。

つまり、矢野氏は自分にはやむにやまれぬ大和魂があるので、クビになろうがどうなろうが、日本のために言うべき事を言うのだ、と言っているのです。

(1)矢野氏記事内容は財務省の公式パンフレットごときもので、大和魂とは無縁である

しかし、矢野氏はその原稿の中で自分自身の事を、幕府に盾を付いて死罪となった吉田松陰の様なヒーローの様に脚色していますが、それは吉田松陰に対して誠に失礼な話です。そもそも松蔭は「老中暗殺計画」という政府の重要役人を暗殺しようとしたため死罪になったのです。

一方で矢野氏が主張している(a)~(c)はいずれも、安倍内閣、菅内閣、そして岸田内閣の基本的な政策方針に他なりません。つまり矢野氏は、「大和魂」なり「勇気をもって意見具申せねばならない」などのヒロイックなもったいぶった文言とは裏腹に、単に政府の既定路線を繰り返し主張しているに過ぎないのです。

というより、彼がこの記事で主張しているのは、彼自身が事務次官として所管する「財政審」などの会議体で、(a)~(c)が正しいと言う(意見を持っているが故に選定したとすらしばしば疑われすらする)有名大学経済学部教授等による、(a)~(c)が必要だという発言に基づいて、財務省として省として決定したものを、内閣に上げて「閣議決定」してもらった方針そのものです。

(もちろん、(b)や(c)は積極的に決定したものではないものの、給付金や減税派、そういう主旨の政治決定があってはじめて実施されるものでありますから、それを頑なに財務省は拒否し続けることはすなわち、(b)や(c)を政治決定していることと同じ重みを持つのです)

したがって、こうした財務省決定、閣議決定で決まった事を雑誌で公表する事など、吉田松陰の命すら厭わぬ大和魂に基づく諸種の振る舞いとは縁もゆかりも無い振る舞いと言わざるを得ません。

さらに言うなら、その記事は単、財務省の公式見解を解説する財務省パンフレットのごときものとすら言いうるもの。そんな財務省パンフレットごときものを、大和魂があるから具申するなぞと脚色するなど、自意識過剰も甚だしいと言われても致し方無きものでしょう。

それが証拠に、矢野氏はこの記事を公表する前に、上司にあたる麻生財務大臣に、記事の公表について了解を得ています(それを、現在の上司にあたる鈴木財務大臣が公言しています)。

財務省事務次官が異例の寄稿 衆院選の政策論争「バラマキ合戦のよう」と批判

しかも、「政府の方針を否定するようなものではないと受け止めているし、中身が問題だと思っていない」と現・鈴木財務大臣は公言してすらいます。

これは単なる一サラリーマン、一組織人として至って普通の行為ですが、そんな当たり前のお役所仕事をしておいて「大和魂で具申する」と言うなど、他人として見ているだけでも穴があったら入りたくなる程に恥ずかしい話に思えます。

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