中国「極超音速兵器」実験の波紋。軍事競争は宇宙空間に及ぶのか?

 

そうした極超音速滑空体に対する評価はさておき、ここでは実際に防御する手立てについて考えてみたいと思います。極超音速滑空体が本当に現在のミサイル防衛能力では対処しにくい場合、発射直後のブースト段階で破壊するのが最も確実かも知れません。弾道ミサイルは、打ち上げ直後の高度20キロの速度はマッハ3くらいですから、これを狙うのは難しくないからです。

その場合の手段としては、2017年6月19日号で西恭之さんが紹介したような固体レーザーを無人機に搭載する方向が加速される可能性があります。既に固体レーザーは米陸軍の兵器無力化レーザーシステムや海軍のレーザー迎撃システムなどで実用化されており、強力なものが登場するのは時間の問題だからです。

対象国が北朝鮮のように国土面積が限られている場合、日本海と黄海上空に固体レーザー兵器を搭載した無人機を滞空させておけば、発射と同時に破壊することができます。

日本の場合でいうと、日本に対する弾道ミサイル攻撃の危険性が高まっていると認識した場合、発射される地域を狙える空域に無人機を滞空させると世界に向けて宣言しておくのです。どの国を対象とするのかは口にする必要はありません。中国についても無人機が20キロほどの上空から狙える沿岸部に対しては有効性を持つでしょう。

固体レーザー兵器が実用化されるまでは、既に台湾やロシアで実戦段階にあるマッハ6以上の速度を持つ空対空ミサイルをさらに高速化させ、無人機に搭載することになるでしょう。これだけでも、極超音速滑空体を発射しようとする国に対する一定の抑止効果は生まれてくると思われます。

問題は、中国のように広大な国土の奥深く弾道ミサイルを隠すことができる国です。その場合は、人工衛星搭載の固体レーザー兵器が宇宙空間から狙うことになるでしょう。そうなると、中国やロシアも衛星攻撃兵器や固体レーザー兵器搭載の人工衛星を打ち上げ、米国の衛星を狙うことになります。

その先は核兵器の前例が示しているように、極超音速滑空体も固体レーザー兵器搭載の人工衛星も軍縮交渉のテーマとなり、かりそめの平和が実現するのかも知れません。こんな兵器開発競争をしなければ軍縮の動きにならないなんて馬鹿げていますが、これが人間の性だと思うと致し方ないのかも知れません。(小川和久)

軍事の最新情報から危機管理問題までを鋭く斬り込む、軍事アナリスト・小川和久さん主宰のメルマガ『NEWSを疑え!』の詳細はコチラから

 

image by: Shutterstock.com

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 中国「極超音速兵器」実験の波紋。軍事競争は宇宙空間に及ぶのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け