対照的な存在が、まさに平井氏の対立候補である小川氏だった。
筆者が知る限りでは、小川氏ほどネット映像を活用して選挙戦を繰り広げてきた候補者はいない。その眼目は、小川氏と支持者、ボランティア、事務所スタッフのありのままの姿を、できる限りリアルタイムで映し出すことだった。
小川氏が1人1人をねぎらう毎朝の風景。各地域のスーパーマーケット前に集まった人々と対話する青空集会。主要ターミナル前や百貨店前での街頭演説。さらにはスタッフの活動、会話など、とにかくあらゆることが記録され、包み隠さず我々に映像として届けられる。
そこからにじみ出るのは、誰とも同じ目線で接する小川氏の人間性であり、それに惹かれて集まった人々の思いである。
全国各地から馳せ参じたボランティアも含め、あれだけ心を一つに戦った選挙に、小川候補が負ける道理はなかった。
小川候補9万267票、平井候補7万827票。実に、2万票近く差をつけての圧勝だった。これまで選挙区に立ちはだかっていた平井卓也氏という大きな壁を打ち破ったのである。
平井氏は西日本放送と四国新聞を牛耳る香川のメディア王「平井家」の三代目だ。
四国新聞は平井氏の母・温子氏が社主で、弟の平井龍司氏が代表者。西日本放送は平井卓也氏が1987年から99年まで社長を務め、今は日本テレビホールディングスを筆頭株主とするも、四国新聞やそのファミリー企業が大半の株を所有している。
両社は選挙ともなると平井氏に好意的な報道をすることで知られ「平井新聞」「平井放送局」と揶揄されるほどだという。長年、地元の人々に親しまれている新聞、テレビ、ラジオを味方につけているのだから、選挙に弱いはずがない。
それゆえにこそ、小川氏が選挙区で勝ったことは、本人はもちろん、立憲民主党の将来にとっても大きな意味を持つ。
おりしも、総選挙の責任をとって立憲の枝野代表と福山幹事長は辞意を表明し、年内に代表選挙の日程が組まれることになった。かねてから代表選に出馬するためにも選挙区で勝ちたいと公言していた小川氏にとっては、またとないチャンスが巡ってきたといえる。
東大から総務官僚というエリートコースを歩んだが、2003年、政界に転身。国会質疑では鋭く問題点に切り込んで異彩を放つ一方、高松市内の家賃4万7,000円の賃貸住宅に住み続け、「パーマ屋のせがれ」と称して、美容院を営む両親の常識的な価値観、倫理観を今もって大切にする。虚飾と欺瞞に満ちた政治家像とほど遠いところがいい。
立憲民主党の代表選が、がぜん面白くなりそうだ。
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image by: Twitter(@Akira_Amari)