SAMSUNGがここまで世界的な企業になった裏にある“営業の秘密”とは

 

まず、帰国翌日(正確には2週間の自家隔離を終えた翌日)、自宅近くのボクシングジムに登録した。南アフリカ共和国の歌手(人気ラッパー)との約束を守るためだ。尹聖赫氏を親のように慕っている彼が、いっしょにボクシングをやろうと言ってきたもの。

「スパーリングをしながらボクシングと営業の似ている点を考える。お腹の肉が落ち体が軽くなったのはおまけだ」

そして、帰国の飛行機で構想した自分の32年間を総括する本を書き始めた。当時、三星アフリカ販売網は万年赤字から脱して初めて利益を出しながら、「自分たちにもできる」という自信を芽生えさせていた。

南アフリカ共和国を発つ日。ホテルまで訪ねてきた従業員が涙を流し、「あなたが心から愛したアフリカを、私たちもやり遂げられるという事実を、本に書いてほしい」と言ってきた。お酒を飲みながら「私が言ったエピソードを必ず入れてほしい」というアドバイスもあった。

1年間、彼の日常は朝起きてご飯を炊いてコーヒーを淹れて奥さんを起こすことから始まる。妻が学校に出勤すると、ボクシングジムまでの1.6キロを走る。ジムについて1時間半、縄跳びやシャドーボクシング、スパーリングをしながら、汗を流して帰ってきて、簡単に昼食を取った後本を書くことに夢中だった。

「本を書いたのはとても素晴らしいことだと思います。これまでの記憶をすべて吐き出して、それを人々が理解しやすいようにつづる方法を悩み、読みやすいように文章を整え…。やってみたら時間が解決してくれることがたくさんあります。心が整理されるのです。そうしながら未来の輪郭もつかめました。最初は500ページほどの分量を書き、5回も書き直しました。最初の原稿と比べると、文章の書き方も上手になりましたね」

「先輩たちは『お前は筆力がすごい。いつこんなものを準備したんだ』と言ってくれました。私をただ引退した会社員としか思っていなかったボクシングジムの方々からも、挨拶をたくさんいただきました」

「三星に対するイメージが180度変わった。三星といったら『甲』のイメージしかなかったけど、こんなに一生懸命に『乙』のように働いたのかと。」

フェイスブックに、ハングルと英語で本が発売されるというニュースを掲載したところ、米国や南アフリカ共和国のかつての仲間らが、計200件あまりの書き込みを残してくれた。

特に南アフリカ共和国からは英語に翻訳してほしいという要請が殺到した。印税収入は全額、ネルソン・マンデラ財団に寄付することにした。

「これまで妻と2人で時間を過ごしたことはありません。とても幸せです。20年間海外生活で疎遠だった友達とも会うようになりました。ぎこちなくても20、30年ぶりに友人に連絡してみると、各界各層で重要な仕事をした友人がとても多いんです」 原子力発電や水素発電、投資資産を運用する友人までいる。これらの点を結びつけると、何かになるかもしれない…」

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