ふじみ野“猟銃”立てこもり射殺事件を招いた「在宅」という閉鎖空間

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日本中を震撼させた、埼玉県ふじみ野市で発生した訪問診療医射殺事件。容疑者の行動や供述はあまりに異常ですが、訪問看護や介護の現場では、一部の利用者や家族によるパワハラや暴力が以前から問題となっていたことも事実です。今後さらなる高齢化が進む我が国にあって、このような事態を防止する手立てはあるのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、これまでの調査で明らかになっている現場での深刻な事態を紹介するとともに、その解決法を探っています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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在宅ケアの暴力の実態

埼玉県ふじみ野市で男が住宅に立てこもり、男性医師が撃たれて死亡するという、痛ましい事件が起きてしまいました。

報道によれば、容疑者の男は数年前から高齢の母親を介護。母親が他のクリニックで受け入れを断られたため、5~6年前から亡くなった医師のクリニックが母親の訪問介護などを行っていたといいます。

男はスタッフに対して、クレームや罵声を浴びせることが度々あり、治療方針の相違からクリニックに抗議文を送りつけたり、気に入らないことがあると怒鳴り声を上げたりしていたそうです。

事件当日は、医師ら7人を自宅に呼びつけ、母親の遺体がベッドに安置された部屋に招き入れて「心臓マッサージをしてほしい」と蘇生措置を求めたとされています。

これまでにも在宅ケアの現場では、利用者やその家族からのパワハラや暴力が問題視されていました。しかし、一方で、「看護師のくせに利用者を悪く言うのか!」「介護職員のスキルが未熟なんじゃないか!」「被害を公表して恥ずかしくないのか!」といった、“世間”のバッシングがあとを絶たなかった。安全地帯から石を投げる人たちです。

中には、「看護師や介護職員も利用者に暴力をふるっている」などと、逆ギレならぬ、逆批判が出たり。兎にも角にも、在宅、と言う閉鎖された空間での問題を、「社会の問題」として認知してもらうまでには、なっていなかったのです。

そんな中で起きた今回の事件。どうにかして防ぐことはできなかったのか、と悔やまれてなりません。

これまで行われた調査では…

  • 訪問看護師の33.3%が身体的暴力を経験(「在宅ケアにおけるモンスターペイシェントに関する調査」2008年)
  • 介護職の55.9%が身体的・精神的暴力を経験し、施設介護職員では77.9%、訪問介護職員では45.0%、介護職の42.3%が性的嫌がらせを経験。施設介護職員では44.2%、訪問介護職員では41.4%(以上は「介護現場にあるケアハラスメント」2017年)
  • 訪問看護師の50.3%が身体的暴力・精神的暴力・性的嫌がらせを経験(「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力の実態と対策」2017年)
  • 身体的暴力をうけたことがある人は45%、精神的暴力を受けたことがある人は53%、セクシャルハラスメントを受けたことがある人は48%(「全国訪問看護事業協会」2018年)

ご覧の通り、10年以上前から、さまざまな調査で、在宅ケアの現場で起きている由々しき“実態”が明らかになっています。10年以上前から“悲鳴”を上げることもできず、泣き寝入りするしかない状況が続いているのです。

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