中ロ共同声明に書かれた日本への強い「警告」。中国は“五輪閉幕後”どう動くか?

 

では、思惑の違いがありながらもなぜ共同声明が発せられたのか。それはロシアにとっても侵攻はそれほど望ましい選択ではないという見極めが中国側にあったからだ。

ロシアはNATOの東方拡大に強く反発しているものの、その矛先はEU主要国には向けられていない。ロシアの苛立ちは主に、内政の事情からNATO加盟を強引に進めようとするゼレンスキー大統領とウクライナの背後でそれを煽っている──とロシアが考えている──アメリに向けられている。

ゼレンスキーは何らかの方法で懲らしめたいというのがロシアの本音であろう。実際に力に訴えれば火力の差は歴然でウクライナを版図に加えることも難しくはないはずだ。しかしロシアの武力行使は、それこそアメリカが望む理想のシナリオである。

ロシアがウクライナに侵攻すれば、アメリカは経済制裁の大義を得て、ロシアを孤立させ経済的に弱らせることができる。念願の「ノルドストリーム2」を葬り去り、自国産のエネルギーをドイツへと輸出する道も開けるかもしれない。またロシアの関心を西方に縛り付け、中ロ二大国と向き合うというリスクを避けながら、問題を長期化させながらロシアの力をじわじわと削ぐこともできる環境が整うからだ。

だが、このアメリカの思惑は、現状では思うように動いていない。ヨーロッパ伝統国が反発していて、NATO内部でも齟齬が起きているからだ。

そもそもウクライナ問題が火を噴けば、戦場となる欧州大陸の被るダメージは計り知れない。対岸の火事のアメリカとは深刻さが歴然と違っているのだ。

もし東欧が戦場と化せば、EU各国は戦争そのものの負担に加え、数十万人規模の難民の問題とも向き合わざるを得なくなる。ヨーロッパ経済が強い下振れ圧力にさらされ、各国トップは厳しい逆風のなかでの政権運営を余儀なくされる。こんな結果を誰が望むのだろうか。

逆に平和的手段でウクライナ問題が着地すれば、エネルギー供給を巡るロシアとのウインウイン関係は継続され、EU各国はロシアとの貿易で得られるメリットを享受し続けることができる。どちらが賢い選択かは火を見るよりも明らかだ。

だからこそヨーロッパ伝統国はウクライナ支援の姿勢を示しながらも、その実、本気でウクライナためにロシアと戦争するつもりもなければ、その準備をしているとは言い難い状況なのだ。

問題はコメディアン出身のゼレンスキーの政治生命に黄色信号が灯っていて、唯一の突破口として対ロ危機を演出し続けなければならないウクライナの内政と、それを利用しようとするアメリカの思惑だ。

不思議なことだが、これは台湾の蔡英文政権の状況とピタリと重なる。つまりアジアと欧州という違いこそあれ、「尻尾が犬を振り回す」危機がどちらにも存在しているのだ。

話を欧州に戻せば、当然、ゼレンスキーの保身のために利用されるヨーロッパ伝統国は面白くない。象徴的な動きが見えたのは2月8日、同大統領と会談したフランスのマクロン大統領が「ミンスク合意の履行が平和と政治的解決につながる唯一の道だ」と強調したことだ。

ミンスク合意については先週の原稿でも触れた。2015年にロシア、ウクライナと独仏の4カ国で行った停戦合意だ。つまりゼレンスキーにこの合意に「戻れ」と促しているのだが、これも台湾の状況と重なる。

中台の問題がここ数年激化した背景には蔡英文による「九二コンセンサス」(一つの中国を確認したとされる)の一方的な破棄があるからだ。ただし残念なことにアジアでは、マクロン大統領のように平和のために役割を果たそうとする人物はいないことだ。それどころか逆に煽って目先の人気に拘泥する政治家ばかりが目立つ。これはアジアの後進性のためだろうか。

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