ソ連崩壊から自分たちの勢力圏がどんどん浸食されてきたと不満を募らせるロシアは、ウクライナのNATO加盟の動きに対し、「これ以上入ってくるのであれば力に訴える」とレッドラインを引いて警告した。
ただし、これはEUへの警告というよりアメリカに向けられたメッセージだった。ロシアの真意は、レットラインと同時にキューバやベネズエラに軍事施設を設けるとアメリカを牽制したことからも明らかだ。ロシアは、ウクライナがNATOに加盟し、そこにアメリカのミサイルを配備することは、我々がキューバやベネズエラからアメリカを狙うのと同じなのだと伝えたのである。
中国が支持するロシアの動きは、まさにこうした点にある。
ロシアがウクライナに侵攻すればEUは厳しい制裁を発動せざるを得ない。そうなればEUとロシアの対立は激化し、中国は踏みたくもない踏み絵を踏まされる。そんなことになるくらいならばいっそのことアメリカと直接対決し、その覚悟を問うロシアの立場を支援することが自国にとってメリットだと判断したのだろう。
つまりオリンピックの閉幕を待つまでもなく中国は、アメリカの従来的なやり方──民主や人権を使いライバル国の周辺の国で親米政権を打ち立ててプレッシャーをかける──に徹底的に抵抗する緩やかな連帯をつくる方向に動い始めているということだ。中ロの共同声明からはそのことが読み取れる。
では、こうした流れのなかで東アジアはどうなってゆくのか。
実は、これも共同声明のなかにヒントがある。注目すべきは「四」に記された「第二次世界大戦勝利による成果と戦後の国際秩序を断固として守り、国際連合の権威と国際的な公正と正義を断固として維持することを双方は決定した」という一文である。これに続いて「第二次世界大戦の悲劇が再現されないために、双方はファシズムや軍国主義、そしてその責任を逃れようとしたり歴史を塗り潰し戦勝国を侮辱する行為を断固非難する」という記述も見つかる。
これが日本を念頭に書かれていることは言を俟たない。そしてこの流れに北朝鮮や韓国が加わる可能性は極めて高いのである。
ヨーロッパのウクライナ問題とアジアの台湾問題は相似形ではあるが、台湾問題に日本が絡めば、台湾海峡問題は歴史問題と切り離せなくなる。その点において両者は大きく違う性格を帯びているのかもしれない。
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