知恵の無さ露呈。ウクライナ危機に乗じ憲法改正を吹聴する人が信用できぬ訳

 

問題は一旦、憎しみ合う武装勢力が向かい合う状況を作り出し、その緊張状態を解く努力を放棄すれば、やがてウソと謀略にまみれながら戦端を開く口実が出来上がるのは時間の問題だということだ。

その意味で中国は早くから「ミンスク2」に戻るべきだと繰り返してきた。ロシア系の住民が多く、親ロ派武装勢力が実効支配する東部・ドンパス地域に特別な自治権を与えたミンスク合意を「履行して落ち着かせるべき」との考えだった。だがゼレンスキー大統領は国内の反ロシア感情を意識し、「(合意を)を認めない」と言い始め、プーチン大統領を苛立たせ続けた。

ロシアの軍事力の行使は論外だが、大国の横暴という陰に隠れてウクライナ政治の無責任な言動が忘れ去られるのも公平ではない。例えば台湾海峡で緊張が高まった裏側には、台湾の蔡英文総統が島内の反中感情を利用して「92年コンセンサスなどなかった」と民族感情を煽って政権浮揚に利用した事実があるにもかかわらず、台湾海峡の問題が報じられるなかで、台湾側の一方的な行いに触れられることはほとんどないのだ。

事態を落ち着かせるために「92コンセンサスに戻れ」というのは理屈は通っているし、ゼレンスキー大統領がミンスク合意を履行することは当たり前のことだ。

もし世界が戦争を望まなければ、ロシアに自制を促すと同時にウクライナにミンスク合意を順守させるように圧力をかけるべきではなかったのか。

次に、もう一つの視点についてだ。これは今後もし西側の対ロ制裁が奏功し、プーチン大統領がウクライナ侵攻を後悔する日が訪れたとしても、それ以前のウクライナが戻ってくるわけではないという話だ。

ウクライナ国民やゼレンスキー大統領は、本当にこんな結末を望んでいたのだろうか。

2月25日、ゼレンスキー大統領は国民に向けた演説のなかで、「我々と共に戦う国はないようだ。我々はひとりで国を守っている状況だ」と絶望した。やつれたTシャツ姿で発信された演説は、さらに「今日、欧州27ヵ国に直接(ウクライナが)北大西洋条約機構(NATO)加盟国になることができるかと尋ねたが、回答がなかった」と続いた。

演説には明らかにアメリカとNATOへの恨みが込められていたが、冷淡な見方をすれば「誰もが予測できた結末」だろう。それが見えなくなったのは、ロシアとの対決に目がくらんで冷静な判断力を失ったためだ。一つの国を国民に憎ませる怖さの一つだ。

アメリカやNATOがいれば──。もし国を背負う者がそんな博打をうったとしたら恐ろしい。戦争は国民がゼレンスキーを選んだ時を起点と考えるべきなのだろう。

私はウクライナの専門家でもなければロシアの専門家でもないが、ここ数年、ロシアとの対決姿勢の空気を醸成に貢献した政治家はゼレンスキーだけではなかったはずだ。たくさんの政治家や専門家、ジャーナリストがメディアで勇ましい意見を発信し続けていたはずだ。そうした人々はいま、現状をどうとらえているのだろうか。

できもしないことを、さもできるように煽り人気を得ようとするのは政治家の卑しき一面で、どの国の政界にも存在する。内政での公約であれば害は少ないが、対外政策でそれをやれば、死活的なダメージが国と国民に及ぶこともある。それこそがロシアのウクライナ侵攻から得られる教訓だ。

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