平和ボケ国家ニッポン。台湾問題への余計な「口出し」が祖国を滅ぼすワケ

 

本来、ロウ戦争を見てアジア人が気が付かなければならないのは、当事者に冷静な収支計算をさせられなくなった時点で、その地域は「敗者」だということだ。外交力をもたない地域の悲劇と言い換えても良い。戦後70年以上の発展は、大なり小なりこの賢明さに支えられていた。

3月29日、ロシア・ウクライナ間で停戦協議が最も進んだ。このときウクライナ側は「中立」と「NATOへの加盟申請の放棄」を提案したと報じられた。もし、この提案を昨年末の時点でしていれば、ヨーロッパの現状はもっと違ったものになっていたのではないだろうか。そんな発想がアジアの危機をマネージする上で重要になってくるのだ。

だがロウ戦争が起きて以降、日本に湧き上がったのは冷静な思考とは真逆の、隣国への警戒と防衛力強化の呼びかけだった。敵基地攻撃能力へ道を開こうと動く一方で、台湾問題にも踏み込む発言を常態化させた。

台湾海峡は文字通りアジアの火薬庫だ。その危険性を認識せず、安易に口を挟むのは、ある意味で最上級の「平和ボケ」だ。

台湾海峡問題の源流は戦後間もなく起きた中国共産党と中国国民党の内戦だ。現在も内戦は続いているが、長らく戦闘は起きていない。それは米軍の存在からも説明できるが、やはり大きいのは中国が一方的に「平和統一」を掲げ、舵を切ったことだ。

背景には経済発展を優先したい中国の事情もあるが、一方で「現状維持」を黙認するメリットを計算したのだろう。

ただ共産党指導層がこの収支を冷静に受け入れるためにはどうしても譲れない条件が一つあった。それこそが「台湾独立」だ。中国が「平和統一」を掲げながら武力統一の旗を完全には下ろさないのは、その線を越えれば「いかなる犠牲を払っても」阻止するという決意を示すためだ。

いま台湾海峡がきな臭くなってきているのは、長らく中台間で「一つの中国」を確認する──いわゆるレッドラインは踏み越えないとする──記号だった「九二コンセンサス」を蔡英文政権が「なかった」と公言したためだ。中国はそれまで、同コンセンサスを踏まえて台湾をWHOをはじめいくつかの国際機関に参加させる道を開いてきた。それを突然なかったとされれば面子はない。猛烈な勢いで反発を始めたのだ。

いまアメリカは中国をけん制するツールとして台湾を利用し始めている。それを中国が警戒する構図だ。中国が度々口にするのは「中国の覚悟を試すな」という警告だ。

こんななか日本がアメリカの手先となって台湾問題に口を出すメリットは何なのだろう。口を挟んでも日本の安全保障環境が好転することはない。むしろ明確な敵を一つ作り出し、悪化は明白だ。日本の過去の侵略が台湾から始まったことを考えれば、戦後77年間の平和への取り組みも水泡に帰すかもしれない。

それ以上に心配なのは戦争の可能性だ。日本の動きに背中を押された台湾独立勢力が本格的に中国を挑発し海峡危機が勃発したとき、日本に何ができるのだろうか。煽るだけ煽ってNATOのように見捨てるのだろうか。

冒頭からの流れでこれを説明すれば、中国には日本の領土を奪う野心はなくとも、攻撃する明確な動機が生れることになる。しかもわざわざレッドラインを設けて警告したにもかかわらず、アメリカの手先となり、したくもない戦争に巻き込んだ日本に対して中国はどれほど激しい感情を向けるだろう。このとき敵基地攻撃能力がどれほど役に立つのだろうか。

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