「西側諸国の結束」は幻想。ウクライナへの“過剰援助”で孤立する米国

 

世界秩序観念の不在

この大事な局面でバイデンは何をしていたのかと言えば、韓国と日本を訪問して中国の脅威について語り合うのに忙しかった。しかもその中身は、台湾有事に米軍が直接介入するかのようなことを大統領としては明言しながら、すぐに本国の国務省が否定するという猿芝居付きのお馴染みの演目で、何のインパクトも生まなかった。

また「自由で開かれたインド・太平洋」の名の下、米国主導の「インド・太平洋経済枠組み(IPEF)」が唐突に提起され、日米印豪クアッド4カ国と韓国は入るが台湾は入らず、ASEAN10カ国では経済的・政治的遅れた(?)に3カ国が除外されるなど、何を以て編成原理とし達成目標とするのか意味不明な団体がバタバタと立ち上げられた。

帰国したバイデンを待っていたのは、南北アメリカのすべての国(35カ国)が加盟する米州機構の3年ぶりの首脳会議@ロサンゼルスで、しかし、ここでもバイデンは「民主vs専制」の二分法を適用して、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアの3カ国を排除する方針を採り、それに反発したメキシコなど8カ国が欠席するという異例の事態となった。

つまり、ダボスでも日本でもロサンゼルスでも、バイデンは「西側」の旗の下に世界を結束させてそのリーダーとしての地位を固めるのでなく、組織化の原理原則を欠いて「とりあえず味方だけを掻き集める」というだけの幼稚なやり方に走って、かえって孤立を深めているように見える。

実は米国の余りに熱心なウクライナ支援それ自体がそうで、振り返って見れば欧州を含めほとんどの世界の国々は付いてきていないのに気づくはずなのに、バイデンにはそれが認識できないという心の病――と言って悪ければ余りに酷い「哲学の貧困」がある。

独シンクタンクの分析

ドイツのシンクタンク「キール世界経済研究所」が5月に発表した報告書「ウクライナ支援の追跡/どの国がどのようにウクライナを援助しているか」を見ると、「全世界」とか「西側」とかに支援されたウクライナというのはほとんど幻像で、エマニュエル・トッドが最初から見抜いていたように「ウクライナ軍は米国が作った軍隊である」ことがよく分かる。

Figure 1(図1)は、22年1月24日から5月10日までの期間に外国政府が供与した対ウクライナ援助約束の総額で、上から順に米国429.5億ユーロ=約5.8兆円)、EU合計159.2億ユーロ、他の供与国合計77.0億ユーロの3区分。棒グラフ内の色分けは発表の時期別だが、ここでは無視する。米国は全体の64.5%、EU合計の約2.7倍を一国で背負っている。

Figure 2(図2)は、同じ期間の政府援助約束の国別ランキングで、米国がぶっちぎりのトップで、英国、EU機関、ポーランド、°ドイツが続く。棒グラフ内の色分けは種別で、左から「金融」「人道」「軍事」を示す。

Figure 5(図5)は、武器・軍事機器援助とそのための金融支援で米国がトップの240億ユーロで、そのうち140億ユーロが武器・軍事機器である。以下、英国23.4、ポーランド15.2、EU機関15、ドイツ13.9億ユーロと続く。

これらのグラフからは、米国の異様なまでの突出ぶりを視覚的に確認すれば十分だろう。より詳しい数字ととの分析は下記を参照のこと。

The Ukraine Support Tracker. Which countries help Ukraine and how?

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