プーチンの“怒りの炎”に油を注ぐ「クリミア攻撃」ゼレンスキーが犯した大失策

 

2014年に「ロシア人同胞の権利を守る」という旗印の下、緑の戦車部隊と情報戦でロシアが一気にクリミア半島を併合してしまいました。その後、「クリミア半島を取り戻せ」がNATOやその仲間たちの合言葉になり、反プーチン大統領勢力の旗印になっていますが、普段からよく意見交換をしているストラテジストたち曰く、「ウクライナがこの時点でクリミアに触ってしまったのは、戦略上、賢明とは思えない」とのことで、「これを機に、まとまりを欠いてきていたロシア軍の眠りを覚まし、ウクライナに対して決定的な攻勢に出させる機運を高めることにつながるのではないか」と考えているようです。

2014年のクリミア半島の併合は、プーチン大統領にとってはサクセスストーリーとして扱われており、また同時に、旧ソ連解体後一度は近づこうとした欧米諸国との決別を意味する大事な契機と言え、今でも続く高い支持率の基盤となっている事項だと考えられています。ロシア海軍の港での相次ぐ爆破事件は、実行犯は公にはなっていませんが、恐らくウクライナ軍の特殊部隊(注:英国に訓練されているグループ)による仕業と言われており、ウクライナ側もそれを否定していないことから、プーチン大統領とその周辺、そしてロシア軍内での怒りの火に油を注ぐことになったという見解です。

個人的にはクリミア半島をロシアが一方的に併合したことは受け入れられないことですが、戦略的には、「今回のロシアによるウクライナ侵攻の失敗を印象付けるための最後のトドメ」として残しておいてもよかったのではないかと考えます。

ちなみに、一説によると8月30日に亡くなったゴルバチョフ大統領も、それまではプーチン大統領の方針を非難していたにもかかわらず、2014年のクリミア半島併合については支持していたほどで、今回のウクライナ侵攻への非難とは、あえて分けていたとのことですから、「ロシア国内でも反プーチン大統領の勢力が増えてきている」と嬉々として伝える報道内容がどこまで信頼に値するかは疑問ではないでしょうか。

ペスコフ大統領府報道官のようにプーチン大統領のスポークスマンとして表立って発言する人は別としても、クリミア半島へのロシア人の思い入れは侮れませんし、特に自らのサクセスストーリーに泥を塗ったウクライナにどのような一撃をプーチン大統領が加えようとするのか、とても気になります。

次に非常に気になるのがウクライナ南部にあり、欧州最大の原発であるザポリージャ原発を巡る攻防の行方です。

ロシア軍が原発内に駐留し、発電所と関連施設を手中に収めている中、ザポリージャ原発内の施設への攻撃が増加しています。原子炉から100メートルの位置に砲撃が…という背筋が凍りそうな情報も多数ありますが、それが誰の仕業か、こちらもまた真相はわかりません。

一説には「ロシア軍はかなり追い詰められており、やむを得ず原発を盾にウクライナからの攻勢を弱めようとしている」といった内容や、「ウクライナのみならず、ウクライナを支援する周辺国、欧州各国も、場合によっては巻き添えを食らうという状況を作り出しているのだ」という情報もありますが、強ち(あながち)偽りとは言えないでしょうが、これもまた事実とも異なるような気がしています。

ただ原発への偶発的な攻撃が生みかねない影響は、福島第一原発事故の記憶およびチェルノービレ(チェルノブイリ)原発事故の記憶が鮮明に残っている私たちにとっては恐怖以外の何でもなく、原発を戦闘に巻き込もうとしていることは行き過ぎだと思われます。

国際社会の懸念の高まりを受け、原子力の平和利用の確保を司るIAEAの調査団(グロッシー事務局長を含む)がザポリージャ原発の状況を調査すべくウクライナ入りしていますが、その効果は未知数です。

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