災害慣れしている日本人
また、映画であらためて気が付かされるのが、日本は本当に災害が多い国であるということ。映画においても、東日本大震災だけでなく阪神・淡路大震災と関東大震災にまつわるストーリーが挿入されている。
そのことに関連し、日本人にとって災害とは「当たり前」というよりも、もはや“災害慣れ”しているという事実。
フランスには「気候不安症」という言葉があるという(*5)。フランスの場合、今年はとくに異常な気象が相次いだ。パリでは40℃を超える気温を記録、さらには前例にないほどの暴風や雷、山火事が襲った。
「つまり、今まで想像もしなかった災害が目の前にあるという恐怖心を抱いている。日本は明らかに違う。気候変動の悪影響を受けていないとは言えないが、ずっと前から大規模災害がたびたび起きている国だから、その変動を感じていない可能性がある。地震や津波、台風、火山の噴火など、フランスにはない現象が昔からあるので、何か災害が起きても『異常』と思わない日本人が多いのかもしれない」(*6)
しかしながら、結果として、日本人の環境への配慮の意識は相変わらず低いまま。
開きっぱなしの政治
最後に、本作の主題について触れよう。本編中には、“災い”をもたらす扉を閉めることを使命とする「閉じ師」が日本各地を旅し、扉を閉める。なるほど、何事にも“開きっぱなし”はダメだ。
扉は一端、開けるのは良いが、また閉めないとならない。それは政治も一緒。たとえばアメリカにある有名な政治用語として「回転ドア」というものがある。回転ドアとは、くるくる回りながら入れ替わるドアのこと、
アメリカでは政権が変わると、閣僚はもちろん、上級官僚の多くも入れ替わり、政権与党の政策に沿った政策が展開されていく。
ところが日本はどうか。自民党が戦後、2010年近辺を除き、一貫して政権の座に。そのことが結局は、日本の国力の低下を招く。
政権交代がないことは、イコール世襲議員がいつまでものさばることを意味し、結果、女性議員の新規参入を抑制。
さらに法制度も変更されず、いつまでも硬直化。いつまでも死刑制度や同性婚、夫婦別姓を認めないという時代遅れの法制度が取り残される事態に。
本作の“隠れたテーマ”は「父性の不存在」だ。いたるところにシングルマザーが現れ、結果、父親はいない。
それと相反して、日本政治は、“オヤジども”が牛耳る父権的なシステム。ますます日本の崩壊は“加速”する。
■引用・参考文献
(*1)「すずめの戸締まり:興収93億円突破 100億円超えも視野に」MANTAN WEB 2022年12月19日
(*2)中野剛志「日本の経済成長率が『世界最低』である、バカバカしいほど“シンプルな理由”」DAIAMOND online 2020年4月3日
(*3)「“廃虚”マンション 解体できない理由は…」日テレNEWS 2019年2月19日
(*4)Leanna Garfield 「廃業した6つのショッピングモール、その再利用法 大学のキャンパスやグーグルのオフィス、教会に」BUSINESS INSIDER 2017年4月6日
(*5)西村カリン「日本の若者、世界でも『気候変動への意識』が低いのは『災害への慣れすぎ』が原因?」ニューズウィーク日本版 2022年9月15日
(*6)西村カリン 2022年9月15日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年12月31日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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