歴代最長の2期10年の任期を終え退任する黒田東彦氏の跡を受け、日銀総裁就任が濃厚となった雨宮正佳現副総裁。思うように景気が回復しない我が国にあって、新総裁が進めるべきはどのような金融政策なのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、岸田首相の思惑とは逆にはなるものの、今あえて一旦円高に振ってみて得られるメリットを考察。さらに「3本の矢」ならぬ「3段ロケット」での対応を、具体案を挙げつつ提言しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年2月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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日銀総裁人事、現状維持は可能なのか?
2月10日に発表になると言われていた、日本銀行の人事が明らかとなってきました。この人事については、昔から本人に内示の直後にリークするという風習があるようで、何とも不愉快な感じを持っているのですが、今回もそうで、黒田東彦総裁の退任が既定路線となる中で、後継は雨宮正佳副総裁となる模様です。
まあ、いかにも岸田総理らしい人事というわけで、とりあえず4月の統一地方選を考えると輸出や観光産業に配慮して、円安政策を継続しようというのでしょう。理解できますが、しかし本当にそんなに簡単に行くのかというと疑問が残ります。
まず、現状としては円高圧力というのは、まだ残っています。確かに、先週の2月3日に発表された米1月の雇用統計は、失業率が「3.4%」という1969年以来の好結果となっており、その結果として、景気が十分に鎮静化していない、そこで連銀は金利上昇スピードを緩めないかもしれない、そんな観測が出ています。その結果として、短期的にはドル高円安に振れているわけです。
ですが、もう少しレンジを広げてみた場合には、市場の流れはやはり円高です。遅かれ早かれ、ドルの金利上昇は鈍化しますが、一方で日本は「異次元緩和」をいつまでも続けるわけには行かないので、やがて引き締めに転ずる、としたら「国家債務を相当な部分まで個人金融資産で相殺している」日本の場合は、短期から中期では円高になる、これが自然だからです。
とにかく、日本経済においては、賃金の上昇をインフレ率が上回る「悪しきインフレ」が問題になっています。その原因の多くが、輸入に頼る化石エネルギーのコストだと考えると、この先も円安政策を継続するとエネルギーコストの家計への圧迫は相当な痛みになると思います。
また、エネルギーに加えて、木材、小麦、大豆など日本の日常生活に欠かせない輸入資源に関して「円安によって日本が買い負ける」現象が指摘されていたわけですが、こうした問題も更に続くかもしれません。
こうした円安の副作用をコントロールしながら、現状維持を続けるというのは、非常に難しい相談です。もしかしたら、岸田総理としては、このままの円安で「3月末の企業決算」と「4月の統一地方選」を乗り切ったら、金融財政政策の方向転換をしよう、などということを考えているかもしれません。
問題は、そんなに話が「上手くいくのか?」という点です。国家債務と民間の債権のトータルで考えた日本のバランスシートは、実は欧米より劣悪ではありません。ですから、当面は円高圧力は続くと考えるべきと思います。
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