なぜ日本の自動車メーカーはEV化の流れに大きく遅れをとったのか?

Nonthaburi-thailand,22,Mar,65:,Toyota,Bz4x,Ev,Car,Concept,On
 

もはや世界的な流れとなって久しい自動車のEVシフト。しかしトヨタを始めとする日本のメーカーは、その波に大きく乗り遅れているのが現状です。なぜこのような状況となってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、日本メーカーがEVシフトを積極的に進めない2つの理由を挙げるとともに、彼らに忖度する専門家たちのウソを鋭く指摘。さらに自身が考える「トヨタにとって一番の問題」を記しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

EVシフトの地政学

先日、米国政府が法律変更に伴う、タックスクレジット(税金の割引)を受け取れる対象となる電気自動車を発表しました(「Federal Tax Credits for Plug-in Electric and Fuel Cell Electric Vehicles Purchased in 2023 or After」)。金額は最大で$7,500(約100万円)と大きいので、売上に対する影響は多大です。対象となるのは、

  • Cadillac: LYRIQ
  • Chevrolet: Blazer, Bolt, Bolt EUV, Equinox, Silverado
  • Chrysler: Pacifica PHEV
  • Ford: E-Transit, Escape Plug-in Hybrid, F-150 Lightning, Mustang Mach-E
  • Jeep: Grand Cherokee PHEV 4xe, Wrangler PHEV 4xe
  • Lincoln: Aviator Grand Touring, Corsair Grand Touring
  • Tesla: Model 3, Model Y

のみです(細かな数字は、ウェブサイトの一覧表を見てください)。

このタックスクレジットを受けるためには、値段、組み立て場所、電池の調達先、使われている素材、などで決まりますが、基本的には米国で製造・生産されたものを優遇する仕組みになっています。

米国政府としては、これにより、地球温暖化対策、インフレ対策、景気対策、中国企業の排除を同時に行おうとしていますが、中国だけでなく、韓国や日本の電気自動車まで対象外になってしまったのは、韓国・日本のメーカーにとって大きな痛手です。政治力不足と言ってしまえばそれまでですが、ようやく重い腰を上げたトヨタは、最大の市場である米国でEVビジネスをしたいのであれば、米国に莫大な投資をするしかない、という状況に追い込まれてしまいました。

ヨーロッパも同様に急速なEVシフトを進めていますが、これを主導しているのは、ディーゼル・スキャンダルでブランドイメージに大きな傷がついた自動車メーカーを抱えるドイツです。日本が得意なハイブリッドを飛び越して、一気にEVへのシフトを進めているのは、それが一番の理由ですが、結果的に、EVに二の足を踏んでいる日本の自動車メーカーにとっては、厳しい状況です。

一方の日本は、自動車メーカーも日本政府も急激なEVシフトには慎重な姿勢を示しています。ハイブリッドの技術力・シェアにおいては日本のメーカーは世界一なので、このままハイブリッドの時代がしばらく続いて欲しいというのが彼らの本音です。水素に関して莫大な投資をして来たことも、EVシフトを積極的に進められない理由の一つです。

そのあたりの事情を理解した上で、「『2050年に全車種EV化はムリ』専門家が徹底討論 EV化の理想と現実 クルマが買えなくなる可能性も」という記事を読むと、日本の「専門家たち」の意見が、日本の自動車メーカーに忖度した結果であることが良く分かります。この記事の中には、「EVの時代になると値段が高くなって普通の人には買えなくなる」という内容の発言がありますが、これは大きな間違いです。

この記事の著者・中島聡さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • なぜ日本の自動車メーカーはEV化の流れに大きく遅れをとったのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け