ワーゲンもベンツも中国に“重点”で冷え込むドイツ。経済の「切り離し」など不可能な2国間の現実

 

迷走に次ぐ迷走を重ねるドイツ政府

そんな中、再び大晦日が迫る。ところが、緑の党のハーベック経済・気候保護相は、ウクライナ戦争が長引き、ヨーロッパ情勢が不穏になり、しかも、ガスが無いという八方塞がりのただ中で、原発を止めようとした。脱原発の完遂は緑の党の50年来の夢。国民の安寧よりも、国家経済の安定よりも、何よりも重要だったらしい。

ただ、原発アレルギーのドイツ人も、流石にこの頃はエネルギーの高騰に怯え、稼働延長を希望した。そこで、すったもんだの末にショルツ首相が稼働延長に踏み切ったが、延長されたのはたったの3ヶ月半。こうして今年の4月15日、ドイツは60年余りの原発の歴史に終止符を打った。国民はエネルギー不安という嵐の中に打ち捨てられた。ただ、エネルギー不安で苦吟しているのは国民のみならず、産業にとっては死活問題だ。節電、節ガスでは国際競争力など保てるはずもない。今、堰が切れたように企業の国外脱出が始まっているのは、決して偶然ではないだろう。

脱出組の中で、一番インパクトがあったのは、世界一大きい化学コンツェルンであるBASF。BASFは100年の伝統を誇るドイツ基幹産業の一つだが、本拠地ルードヴィクスハーフェンにある工場群で一年に使うガスの量は、スイスの年間消費量よりも多かったという。ところが今、BASFは同地の工場の多くを畳み、中国に巨大なプラスチック工場を建てている。投資額は、これまで中国に進出したドイツ企業の中で最高額の100億ユーロと言われる。要するに、ドイツ脱出には会社の存亡がかかっている。

また、フォルクスワーゲン社も、“in China, for China”をモットーに、10億ユーロで超ハイテクの開発研究所を作っているし、メルセデスは1.45億ユーロで、中国市場のウェイトをさらに拡大するという。これらは全て、ここ10年間のドイツ政府のエネルギー政策の結果といえる。

ところが、現政権はそれを修正するどころか、さらに迷走。ハーベック経済・気候保護相とガイヴィッツ建設相(社民党)が、2024年よりガスと灯油の暖房器具の販売を禁止する法案を作り、夏までに国会で可決しようとしていることは前回詳しく書いた。

【関連】新築住宅でガスと灯油の暖房が原則禁止?ドイツ政府の打ち出す「暖房法案」は何が問題なのか?

つまり、「建造物エネルギー法(GEG=Gebaudeenergiegesetzes)」で、これによりヒートポンプ式(電気)の暖房への移行を強化することになる(もっとも、法案は現在、自民党が修正の提案を出しており、本当に夏までに通るかどうかは不確実)。

ところが、これらの出来事と時を同じくして、ヴィースマンというドイツ最大のヒートポンプのメーカーが、米国の空調メーカー“キヤリア・グローバル社”に1,300億ユーロで買収されたという衝撃的なニュースが駆け巡った。

これについては様々な憶測がなされているが、おそらくヴィースマン社は、メイド・イン・ジャーマニーは最終的に米国、中国、あるいは、日本から流れ込む輸入品に価格で勝てないという結論に達したと見られる。つまり、エネルギーの高コストのせいで、ドイツ国内での生産性に限界がきてしまっているわけだ。

ただ、キヤリア・グローバル社にしても、ドイツでいつまで生産を続けるかは定かではない。最初のうちは、ドイツの公金からヒートポンプ購入に際して膨大な補助金が出るので、その恩恵を被るが、いつか補助金がなくなったら、ドイツで生産するよりも、それ以外の国で作ったものを持ってくる方が利益は大きい。つまり、東西ドイツ統一の後でしばしば起こったように、買収したライバル社を最終的には倒産させるという手法が使われるかもしれない。

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