ワーゲンもベンツも中国に“重点”で冷え込むドイツ。経済の「切り離し」など不可能な2国間の現実

Berlin,,Germany,-,November,11th,2018,Olaf,Scholz,Speaking,About
 

かつてはEUの雄とまで言われたドイツ。そんな大国から今、有力企業が相次いで脱出しているという事実をご存知でしょうか。今回、作家でドイツ在住の川口マーン惠美さんは、そんな惨状を招いた現政権の「失政」を取り上げ厳しく批判。さらに政府が何よりも優先して専念すべき政策を提示しています。

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

緑の党と共に破綻していくドイツ経済

2021年12月に成立したドイツの現政権は、ショルツ首相率いる社民党政権で、そこに連立として、緑の党と自民党が加わっている。この3党のうち、外務省、経済・気候保護省などを仕切り、甚大な権力を振るっているのが緑の党だが、お財布(財務省)を握っているのは自民党。

ところが、自民党と緑の党は犬猿の仲で、党内で何もすんなりとは決まらない。それどころか、争いはしばしばエスカレートし、野党の出る幕がないほどだ。その上、肝心のショルツ首相は優柔不断の上、喋ることには中身がなく、おまけに政策は緑の党の言うなり。しかし、自党の権力と政権の持続にだけは熱心とくるから、ドイツの政局はかなりお寒い状態だ。

この政権が始まったとき、ウクライナの国境にはすでにロシア軍の戦車が集結していた。そして、ドイツではまだ6基の原発が稼働中。しかし、ガスの値段はそれより1年も前からすでに上がり始めており、エネルギー危機の兆候は顕著だった。それでも政府は、政権を取った3週間後の大晦日に、嬉々として、残っていた6基の原発のうちの3基を止めた。こうして原発が3基になったところで年が明け、ウクライナ戦争が始まった。その後ドイツは果敢にも、EUの掛けたロシアの経済制裁に加わったのである。

とはいえ、当時のドイツは、ガス需要の55%、石炭の45%、石油の34%をロシアに依存していたのだ。その代替の調達先を急いで探さねばならず、まもなくハーベック経済・気候保護相の必死の奔走が始まった。これまで人権問題で責め立てていたカタールに飛び、深々と頭を下げてガスを乞うたのもこの時期だ(ただし断られた)。

その後、夏頃からガスはだんだん途絶え始め、9月初めには完全にストップしてしまった。しかし、おそらくこの時点では、ドイツ政府もロシア政府も、ようやく完成したロシアからの直結パイプライン第2弾である「ノルドストリーム2」を、まだ稼働させるつもりだったと思われる。

ところが、その新品のパイプラインが9月末、何者かに破壊され、ドイツ政府の望みは断たれた。これ以後のドイツの惨状は言語を絶する。「ガスが足りないのに、冬が来る!」

そうでなくても上がっていたガスの市場価格が青天井になった。

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