サーカスを大人向けにした『シルク・ドゥ・ソレイユ』成功の戦略

April 20 - 2020. Ziggo Dome Amsterdam, The Netherlands. Performance of Cirque du Soleil Varekai
 

この「WE ARE HERE TO INVOKE THE IMAGINATION PROVOKE THE SENSES AND EVOKE THE EMOTIONS」という3つであり、この順番ですよね。想像力を内側から掻き立てられ、センスが外側から揺り動かされた結果、ふだん動きにくかった感情が湧き上がってくる。

実は僕たちがサーカスの外に戻った日常の中でも、新しい想像を掻き立てるものはたくさんあります。鳥のささやき声、葉のすれる音、そこから生じる匂い、いろいろなものの中で、僕たちのセンスは挑発され続けている。そしてそこで僕たちの感情が揺れ動き、新しい感情の交流が生まれてくる。

僕たちは、いったん自分たちの日常生活から逃げ出し、「サーカス」という非日常生活の中に入っていくことによって、本来持っていた想像力と感覚と感情の揺れ動きを取り戻します。その鋭敏さの中で日常に戻っていくことで、日々の日常をより新しく感じることができる。それがシルク・ドゥ・ソレイユだったり、今の洗練されたナイトエンターテイメントのすごさです。

VRの中では、そういうことを「イマーシブ(immersive)」といいますよね。バーチャルリアリティの表現の中では「没入体験」といいますが、没入体験は世界が別世界として統一されてしまうから、自分の日々の日常を忘れ、その世界の中に没入していくことです。

一方でイマーシブは、言葉の語源を手繰れば「イマージョン(immersion)」、要はキリスト教における洗礼なんですよね。キリスト教に入る時に、川の中に自分の頭まで浸して、今までの自分からキリスト教徒としての自分に再構築されていく。

このように、イマーシブには自分を書き換えていく体験があります。それがゆえに、西野さんの『えんとつ町のプペル』は、映画(没入的なもの)を通して「雲の上にもう一回星があると信じていいんじゃないか」「ドリームキラーに諦めさせられずに、僕たちも夢を追ってもいいんじゃないか」という自分の感覚をもう一度取り戻し、夢を追いかけることができる。自分をもう一度再生させる作用があるのが、こういった体験のすばらしいことだと思うんですよね。

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