サーカスを大人向けにした『シルク・ドゥ・ソレイユ』成功の戦略

April 20 - 2020. Ziggo Dome Amsterdam, The Netherlands. Performance of Cirque du Soleil Varekai
 

シルク・ドゥ・ソレイユが人を魅了する3つのステップ

シルク・ドゥ・ソレイユは、なぜ大人をも魅了するのでしょうか?ビジネス的に見た時によくいわれるのが、「サーカスは基本的に子ども向けであり、ふだんの世界では味わえないような非日常を体験させてくれるものだ」ということです。

非日常の中で、人が炎を吐いたり空中ブランコをしたり、「命を落とすかも」というスリリングさが味わえることがサーカスの原理ですが、どうしても子ども騙しに見えてしまいます。そこでシルク・ドゥ・ソレイユは、「スリリング」と「非日常」はそのままにし、大人でも楽しめるややアダルトなものも含め、子どもが楽しめる中世のような非日常のイメージを、幻想的な古典的な象徴を活用したものに合わせていきました。

サーカスの本質を残しながら、価値の源泉を子ども向けから大人向けにズラすことは、『ブルーオーシャン・戦略』という本の「バリューカーブ(ブルーオーシャンを探すために、自社と競合を商品・サービス・顧客ニーズなど項目別に分けて、その優位性を折れ線グラフで表したもの)」では有名です。

確かに商業的なセグメンテーションとしてはそうなんですけど、やっぱり人の心を動かして人を集めるものの中には、「なぜ人の心を動かしているのか?」という本質論があるんですよね。

最近はあまり謳われなくなってしまったんですけど、シルク・ドゥ・ソレイユの本質として彼らが言っているのはこちらです。

「WE ARE HERE TO INVOKE THE IMAGINATION PROVOKE THE SENSES AND EVOKE THE EMOTIONS」。

「VOKING」はこみ上げてくるもので、「INVOKE」は内側から掻き立ててくるものです。日常生活は「非の常」だから、想定どおりのことしか起きにくくなってきます。

それに対して、「何が起こるかわからない」「どうなってしまうんだろう」みたいなシチュエーションの中で、ハラハラドキドキしてくると、日常の中で蓋をしていた想像力が掻き立てられていきます。この想像力が掻き立てられていく中で起こる体験が、「PROVOKE」です。

サーカスは外からの刺激で起き上がるものとして視覚的なすばらしさもあるけど、呼吸だったり生のBGMだったり、煽情的に心を揺り動かす歌だったり。

そういう「視覚」「聴覚」「匂い」、そして何よりも「温度感」があります。「PROVOKE」というのは、こういった複数の感覚を刺激することによって、自分が挑発されることです。「こんな音、こんな視覚刺激の中でもお前はついてこれるのか?」といって、ふだんないような感覚が刺激されることによって、自分が拡張していって、やがて「EVOKE」、感覚・感情が揺り動かされる。自分の中にあるけど、なかなか見えなかった感覚・感情が揺り動かされる中で、自分の中にこびりついた感情が表出されていく。

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