高速大容量、低遅延通信が可能で、日常生活が大きく変わるかのように喧伝された5Gですが、通信エリアは広がってもそれほどの変化を感じられないのが日本の現状ではないでしょうか。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』では、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川さんが、世界各国と比較して日本の5Gが遅れている理由を複合的に解説。5Gのパフォーマンスを最大限に引き出せる「ミリ波」への投資を促すために、アメリカでは当たり前のミリ波対応iPhoneの登場を切望しています。
世界から大きく遅れたニッポンの5G──救世主はミリ波に対応したiPhoneの日本上陸か
エリクソンは7月14日、モビリティレポート2023年6月版の詳細を説明した。エリクソンによれば、2023年末に世界で5G通信の加入者数が15億に達する見込みだという。また、2028年にはスマートフォン1台あたりの平均月間データ使用量は54GBになると見込んでいる。エリクソンの立場的には「5G設備へのさらなる積極的な設備投資が必要」というわけだ。
エリクソンのレポートを見ていると、世界的には5Gへのシフトが進んでいる一方で、日本はやや立ち後れている感が否めない。日本が世界に遅れている要因としては、ひとつにはSub-6で使われている3.7GHz帯が、3大都市圏において、衛星の地球局との電波干渉があったという点にある。このあたりは改善が進むのを待つしか無い。
また、そもそも日本は4Gネットワークの品質が高いこともあり、ユーザーとすれば「5Gにつないでも体感は変わらない」という状況を生み出してしまったのが大きいだろう。
さらに5Gスタート時に、菅政権による値下げ圧力を被ってしまったのが不幸だった。キャリアとすれば、5Gを1000円ぐらいのオプション扱いとするつもりのようだったが、菅政権により値上げをする選択肢がなくなってしまった。値下げ圧力により、モバイル通信収入が不安定になるなか、5Gへの積極投資にブレーキがかかった感も否めない。
5Gのミリ波への投資が少ないのは何とも理解しがたい。確かにミリ波は飛びにくく、お世辞にも扱いやすい電波とは言えない。とはいえ、5Gが始まる前はあれほど「5Gはバラ色の未来」のように語っていたのだから、もうちょっとミリ波に注力してもいいのではないだろうか。
やはり、背景にあるのは「ミリ波端末が少ない」ということだろう。Androidのハイスペック端末だけでミリ波に対応するだけでは無理がある。ここはiPhoneが対応しないことには、各キャリアともミリ波への投資にチカラは入らないのだろう。
アップルと決して仲が良いとは言えないクアルコムであっても、「日本のiPhoneにはミリ波対応して欲しい」と願っているようだ。iPhoneがミリ波対応すれば、ミリ波基地局への設備投資も増え、結果として、Android陣営もミリ波を強化していく。
iPhoneがミリ波対応となれば、各キャリアでミリ波への設備投資合戦が盛り上がってくる可能性もゼロではないだろう。アメリカで売られているiPhoneはミリ波対応が当たり前となっているが、日本向けはいまだにミリ波対応できていない。果たして、今年9月に発売されるiPhoneはミリ波に対応するのか、しないのか。iPhoneが日本のミリ波の命運を左右しているといって良さそうだ。
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