シティ・ポップの再ブームが来たのは「アナログ」だから。漫画家わたせせいぞうが“人間らしさ”を大切にする理由

2023.07.31
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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1983年から1989年まで漫画雑誌『モーニング』(講談社)に毎号カラー4ページで連載され、カリスマ的な人気を誇った漫画「ハートカクテル」。作品に描かれた、まるでアメリカ西海岸やリゾート地を思わせるオシャレな世界観と映画のような男女の恋愛物語は、当時の若者たちの憧れの的となりました。そんな日本中で一大ブームを巻き起こした「ハートカクテル」の作者が漫画家・イラストレーターの、わたせせいぞうさん(78)です。6月28日には来年画業50周年を迎えるわたせさんの「音楽」をテーマにした最新作品集『COLORFUL わたせせいぞうミュージック・コレクション』(玄光社)が発売され、NHK総合では7/31(月)〜8/4(金)までの5日連続でアニメ「ハートカクテル カラフル」夏編(声:亀梨和也、満島ひかり等)が放送されます。『COLORFUL わたせせいぞうミュージック・コレクション』には『ハートカクテル カラフル』の音楽を担当した島健さんとわたせさんとの対談も掲載。そんなわたせさんが、昨今のシティ・ポップブームと「音楽」、そして自身のイラストレーションについて語ったインタビューを一部再録します。

わたせ先生が今でも「手描き」にこだわるワケ

──わたせ先生は、今もイラストを手描きされていらっしゃるのでしょうか?それともすべてデジタルですか?

わたせ:いいえ、手描きです。主線(おもせん)の部分は今も手で描いていますし、服の色、花の色、自然のグリーン、小物、街中の看板の絵、こういったものはマーカーや色鉛筆、パステルを使って手で描いています。それ以外の、車のボンネットやレンガの壁の色なんかはデジタルですね。時代はどんどんデジタルで描く方向になってきていますが、でも、そんな時代にあえてアナログに手描きというところがいいんだと思いますね。

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自身の作品の前で。現在も、主線(おもせん)や看板、自然のグリーンなどは手描きや手塗りだという

──デジタル全盛期の中で、「今も手描きのイラストレーター」という存在は貴重ですよね。

わたせ:そうなんですよ。今はすべてコンピュータで描くようになってきていますから、作品として残るものが少なくなっていますよね。デジタル作品も出力すれば紙に出せますが、じゃあ「原画はどこですか?」となると機械の中ですよね。ハリウッド映画だってCGが出始めた頃はカッコ良かったけれど、最終的には人間が生でやっていることには敵わない。それはイラストも同じだと思いますね。人間が描いた方が下手じゃないですか(笑)、味があると言いますか。

──手描きならではの趣がある、わたせ先生のイラストレーションはJR東日本のポスター広告などでよくお見かけするのですが、とりわけ印象的だったのが、2009年のJRA「東京シティ競馬(大井競馬場)」の一連のポスター広告でした。あのお仕事はどのようなキッカケで来たのでしょうか。

わたせ:僕が42、3歳の頃だから、まだ「ハートカクテル」を連載しているときですが、電通の人からPanasonicのラジオCMの仕事が来たんです。4ページの「ハートカクテル」のようなラジオCMを作りたいんだと。これは、僕が10分くらいのお話を考えて、流す音楽も選ぶというCMでした。どのような構成のCMかというと、まず僕が水先案内人のように話すナレーションが最初に入って、そのうち男女の声優さんの会話があって、そのバックに音楽が流れるというラジオCM番組だったんです。ところが、サラ・ヴォーンの曲とかボサ・ノヴァなどの洋楽を流すための著作権料に一番お金がかかったそうです(笑)。そんなCMを一緒に作った電通の人から、10数年ぶりにお声がかかったのが、東京シティ競馬の話だったんですよ。

──あの東京シティ競馬のポスターにも「ハートカクテル」が関係していたんですね。

わたせ:東京シティ競馬のポスターは、スポーツライターの二宮清純さんとのコラボレーションだったんですよ。二宮さんが文章を書いて、僕がイラストを描くという。二宮さんの書く文章が好きだったので、このお仕事は楽しかったですね。

──JRの駅構内などでお見かけしましたが、かなり大きなポスターで大作でしたよね。あのポスターから、競馬の雰囲気がおしゃれなものに変わったのではないかと思います。

わたせ:とにかく、おしゃれな競馬にしようというコンセプトでしたから。あのポスターのお仕事は印象に残っていますね。

「シティ・ポップ」ブームと音楽と

──昨今、日本の7、80年代のシティ・ポップという音楽が世界的な流行となっています。わたせ先生もシティ・ポップの特集番組でインタビューにお答えしたり、ポスターでシティ・ポップとコラボするなど、関連企画のお仕事も多いかと思いますが、この世界的なシティ・ポップブームについて思うこと、ご自身が70年代から80年代にかけて印象に残っているレコードなどがありましたら教えてください。

わたせ:当時はさまざまな音楽を聴きながら制作しましたよ。午前中はジャズのインストゥルメンタルやボサ・ノヴァをよく聴いていました。シティ・ポップが流行っていた80年代当時は、常に街の中で音楽が聴こえてくる、僕の絵で言うと「街に音符が流れている」ような時代でしたね。大滝詠一さんや佐野元春さん、山下達郎さん、奥さんの竹内まりやさん、ユーミン(松任谷由実)の音楽なんかがよく流れていて。みんながエネルギーを持っていましたよね、いろいろなものが前へ前へ向いていた時代でした。いまシティ・ポップの再ブームが来たというのは、やはりアナログだからなんでしょうね。

──当時は、録音技術もアナログでしたし、再生するレコードやカセットテープなどのメディアもアナログですから、今の世の中で流れている音楽とはまったく違う音だった記憶があります。

わたせ:今の音楽は、みんなコンピュータの打ち込みでしょう。YMO(イエローマジックオーケストラ)なんか、逆にコンピュータに近づけようと、人間が一生懸命に汗かいてやっていたじゃないですか。途中でデータが飛んでしまったり、演奏中の息づかいとか、ミスタッチとか、あれがいいんですよね。どこか人間らしさ、温かさがありましたから。そういった部分に惹かれるんじゃないでしょうか。

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2021年に発売40周年を迎えた大滝詠一『A LONG VACATION』とコラボしたポスター用イラストの前で。この絵は2023年8月30日発売の大滝詠一『暑さのせい EP』にも採用された

──それは、わたせ先生の作品に通じるものがありますよね。手描きだからこそ感じる温かみや、人間らしさと言いますか。

わたせ:やっぱり、そういうことは大切ですよね。どんなにデジタルで作られた音楽でも、ライブで歌ったり踊ったりする行為はアナログなんですから。(2022年6月収録。於:わたせせいぞうギャラリー白金台  港区白金台5丁目22-11ソフトタウン白金1階)

初出:「ハートカクテル」に酔いしれて。漫画家・わたせせいぞうが今も“手描き”にこだわるワケ

 

【わたせせいぞう 関連情報】

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COLORFUL わたせせいぞうミュージック・コレクション

来年画業50周年を迎えるわたせ氏の「音楽」をテーマにした最新作品集。レコード/CDジャケットなど音楽に直接結びついた作品のほか、何かの楽曲からインスピレーションを得て描かれた作品、「音楽が聴こえる」シーンを描いたイラストなどをセレクト。さらに「ハートカクテル」からの2編を含む、音楽にちなんだ単行本未収録のコミック作品数本を掲載。作曲家・島健氏との対談では、わたせ氏の音楽遍歴が披露されている。

定価:3,000円+税
仕様:A4判、160ページ
発売日:2023年6月28日
発行:玄光社
購入はコチラ

 

NHK総合「ハートカクテル カラフル」夏編

ラブストーリーの名手・わたせせいぞうさんが、”現代の多様な恋”を四季の美しい風景と共に描く「ハートカクテル カラフル」。 3月に放送した春編に続き、夏編が放送されます。

放送日:7/31(月)~8/4(金) ※5夜連続放送
放送時間:夜11:45~11:50

別居中の妻に、離婚届を手渡す夏の旅。夏の京都で偶然再会した、幼なじみの2人。亡くなった父親の遺骨を、恋人の家に届ける少年…。わたせせいぞうが得意とする夏の瑞々しい映像が満載。5分間のショートストーリー×5本。

声の出演は春編に引き続き、「ハートカクテル」大ファンという亀梨和也(KAT-TUN)、 実力派俳優の満島ひかり、そして初代ハートカクテルアニメより奥田民義。 サザンオールスターズや浜崎あゆみさんなどの楽曲制作にも関わる島健が音楽を担当 。

● アニメ「ハートカクテル カラフル」(NHK公式サイト)

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