業務で「人工知能」を使う前に理解すべき事は?世界的エンジニアが徹底解説

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ChatGPTの登場で専門家以外の人々にもお馴染みとなったLLM(大規模言語モデル)。現在その業務への応用に向け、激しい開発競争が繰り広げられています。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』ではWindows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、LLMを本格的な業務に使う際に当たり最低限知っておくべき「基礎知識」を解説。理解なしではITゼネコンの食い物にされかねないとの注意も喚起しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)と呼ばれる人工知能を業務に応用するには?

OpenAIのGPTに代表される、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)と呼ばれる人工知能が、実際の業務に使えることが明らかになって以来、より良いLLMを作ろうという試みから、LLMを活用したさまざまなアプリケーションを作ろうという試みまで、さまざまなレベルでの研究・開発が、世界中で激しい勢いで進んでいます。

LLMを活用したアプリケーションとしては、OpenAIのChatGPTが最も多くの人々に使われており、このメルマガの読者の中でも触ったことがある人も多いと思いますが、ChatGPTそのものは、あくまで「汎用的なチャットシステム」であり、文章の要約や、文章の生成には優れていますが、本格的な業務への応用となると、まだまだ不十分な点もあり、ここから先の進化が重要です。

こう言ってしまうと、(人工知能の開発に関わるエンジニアや研究者ではない)一般の人たちは、ChatGPT、もしくは、そのライバルたちの進化を待てば良い、と誤解してしまうかも知れませんが、それは間違いです。

人工知能は、これから、世の中のあらゆる業務で使われるようになりますが、その際には、ChatGPTのような汎用のチャットシステムではなく、特定の業種でビジネスを行うのに必要な知識(ドメイン・ノリッジ)を持ち、かつ、その企業だけが持っているデータにも精通した人工知能が必要なのです。

例えば、サケ・マス類の養殖、捕獲、加工、流通を行っている水産会社を考えてみます。そこで本格的な業務をするのであれば、

  • サケ・マス類に関する基本的な知識
  • 加工業務に関する深い知識
  • サケ・マス養殖に関する深い知識
  • サケ・マス漁法及び、それに関わる各国の規制に関する知識
  • 流通量と市場価格の推移
  • 各国の消費量の推移
  • サケ・マス業務に関わる様々な企業に関する様々なデータ
  • 料理店・鮮魚店・スーパーなど末端のビジネスに関するデータ
  • 各国の消費者が好むサケ・マス料理に関する知識

を持っている必要があるし、それに加えて、その水産会社だけが抱えている、

  • 所有・契約している船の過去の成績
  • 所有・契約している養殖場の過去の成績
  • 取引先に関する詳しい情報
  • その会社が結んでいる様々な契約の内容
  • 過去の失敗事例・成功事例
  • 従業員・契約社員・コンサルタントなどに関する詳しい情報

なども把握している必要があります。

人間であれば、この手の知識は、業務を通じて何年もかけて取得していくものだし、必要に応じて調べれば十分なものもありますが、人工知能を導入するのであれば、即戦力であることが期待されるし、莫大なデータを記憶しており、必要に応じて、瞬時に引き出してくる能力が必要です。

ChatGPT、もしくは、その後ろにあるGPTには、膨大な知識が詰まっているとは言え、あくまで汎用的な人工知能であるため、この水産業社で業務をするのに必要な知識を持っているわけではありません。人工知能を実際の業務で使うには、この手のサケ・マス事業に関わる様々なデータ(ドメイン・ノリッジ)を何らかの形で「覚えさせる」必要があるのです。

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