EV車やHEV車の売りのひとつでもある静粛性の高さ。しかし今、その逆を行くかのようなホンダの試みが話題になっています。今回のメルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』ではMBAホルダーの理央 周さんが、同社の「HEV車のエンジン音開発」を伝える記事を紹介。その上で、企業における差別化の本質について解説しています。
なぜ、ホンダは、EVのエンジン音を開発したのか?他社と違う物をつくること、が本当の差別化ではない~ライバルに差をつけて売り伸ばすには
ホンダが、電気自動車(EV)において、他社と差別化を図るため、特有の音を出せるようにした、という記事が、7月25日の日経新聞に載っていました。
「エンジン車の『音』が価値へ 無音のEV普及で変化」という、この記事の見出しを見た時に私は、車の外にいる人に聞こえるために、あえて大きめの音を出す、という意味だと思ったのです。
通常、EVは非常に静かであるため、歩行者や自転車の人々に対して、安全上の懸念が生じることがあります。
私もわんちゃんの散歩の時に、後ろからEVが近づいてきているのに気づかず、びっくりしたことが何度もあります。
なので、安全のために出す、近くを歩いている人に聞こえる、独自の音は、安全性を高めるためだけでなく、ブランドの個性を強化するな、と思ったのです。
主に安全性の観点から、電気自動車は、エンジン音がほとんどしないため、非常に静かです。
この無音性は、乗る人々にとって、快適なドライブ体験を提供します。
そして、先ほど書いたように、歩行者や自転車乗りなど、道路を共有する他の人々に対しては、車の接近を感知しづらいので、事故の危険性が増すことが、懸念されています。
特に、視覚障害者や子供など、車の接近を視覚で確認できない、または注意が不足している人々に対して、この問題は深刻です。
このため、日産などの自動車メーカーは、人々が車の接近を感知できるように、EVに人工的な駆動音を、追加する技術を開発してきました。
一部の国や地域では、低速走行時に人工的な音を出すことが、法律で義務付けられている場合もあるそうです。
このような取り組みによって、日産は顧客に対して、安全で責任あるブランドとしての、姿勢を示しています。
この意味でのEVのエンジン音を、静かにさせることは、製品の差別化とともに、社会的な責任を果たす戦略、とも言えるでしょう。
一方で、ホンダはモーターとエンジンがついている、ハイブリッド電気自動車(EHV)に、「高揚感のある排気音を演出する」ことを目指した、と同記事にありました。
車内では無音の方が快適であるはずなのに、ホンダはなぜ、時代に逆行するように、わざわざ排気音を開発したのでしょうか?
記事によると、以下のような理由があるそうです。
近年は一般的な乗用タイプのHEVでもエンジン音をあえて聞かせるクルマが登場している。
その代表例が、ホンダ「シビックe:HEV」だ。同車の開発者は、「最近は(エンジンを搭載しない)EVが普及してきた。HEVはせっかくエンジンがあるのだからエンジンの音を聞かせたい」と話す。
具体的にはエンジン周りの防音を工夫することで、エンジンが発する雑音を低減した。「エンジン音を聞く楽しさを重視し、(雑音を低減することで)すっきりとした気持ちいいエンジン音に仕立てた」(同開発者)と言う。
あえて、エンジンの音を出すことで、「クルマに乗っている楽しさ」を演出する、ということを狙っているのです。
EVメーカー各社がこぞって、静音を目指す中、逆張りをすることで、真の車好きのニーズに応えようとしているのです。
これも1つの差別化ですよね。
この記事の著者・理央 周さんのメルマガ