プーチンの思う壺。ウクライナが「見捨てられる」シナリオが現実になる日

 

核使用をプーチン大統領に進言したロシア政府内の過激派

1つはグローバルサウスの存在感と結束の強化です。

G20プロセスのお飾りではなく、コンセンサスを形成する軸となるという外交力強化と影響力の拡大が背景にあります。

コロナによる分断とロシアによるウクライナ侵攻への対応を巡る分断を背景に、中ロ陣営も欧米陣営もグローバルサウスのサポートを得ようと躍起になっていますが、それをしっかりと悟ったうえで、その力をレバレッジする新しい外交戦略を取っていることです。

まだ欧米諸国とその仲間たちは経済力と軍事力に支えられて大きな力と影響力を誇りますが、これまでと違い、上からものを言って他国が従うという構図は成り立たなくなっているほど、グローバルサウスの国々の力と影響力が向上しています。

2つめはG20での裏話をはじめ、最近のグローバルサウスの振る舞いを見た際に気づくのが、これらの国のアジェンダからはウクライナ情勢は消えていることです。言い換えると、サウスの国々が主導する会合や協議体において、ウクライナ問題が他の重要議題に対するエネルギーと時間、資金、そして関心を“汚染する”ことがないように徹底し始めています。

今回のG20でも、ロシアによる侵攻によってウクライナで起きていることと、国際情勢において起きている悪影響についての懸念は表明していますが、具体的に非難トーンは徹底的に削られていますし、G20アジェンダにウクライナへの一方的な支援は含まれていません。

インドでのG20やBRICsなどのそのほかの会議において、グローバルサウスの国々は自分たちのアジェンダをクリアに設定し、その進展と実現のための協議を進め始めており、ウクライナ問題に囚われ続ける欧米諸国とその仲間たちとは一線を画し始めています。

その空気はアメリカや欧州各国にも伝わり、それが各国内でのウクライナ支援に対する見直し機運の高まりに繋がっていると考えられ、NATO各国もウクライナ戦の長期化を認識し、ウクライナ支援の継続の必要性を説くものの、何をいつまでに投入するのかという具体性には欠けているのが最近の特徴に思われます。

その空気を今度はウクライナが感じ、欧米から供与された航続力の長いミサイルなどを用いてロシアおよびクリミア半島に対する攻撃を激化させています。

ロシアサイドの話では、すでに“ウクライナは一線を越えた”という見方が強まり、今後、対ウクライナ攻撃のアップグレードを行うとのことですが、それが何を意味するのかは不明です。

ただオデーサの港湾施設に対しての精密誘導ミサイルを用いた攻撃の頻度が上がっており、ポーランド国境に近いリビウ周辺にも定期的にミサイルが着弾するという“飛び道具”をこれまで以上に投入し、時折、最新型の戦闘機からのミサイル攻撃も織り交ぜて、制空権の掌握に勤しんでいると思われます。

アップグレードがロシアによる戦術核兵器の使用にまでエスカレートすることはないと考えていますが、ロシア政府内の過激派は核使用をプーチン大統領に進言し、穏健派は一時停戦を受け入れ、態勢の立て直しを進言していますが、どちらにも傾かないプーチン大統領に対して不満が両サイドから高まっているという分析も入ってきていることから、非常に予測が難しいと言わざるを得ません。

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