ターゲットは日本だけなのか。中国が進める「服装禁止令」を考える

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中国政府が「治安管理処罰法」の改正案に、「中華民族の精神を損ない、感情を傷つける服装の禁止」を盛り込むとして、議論を呼んでいます。この規制問題を取り上げるのは、メルマガ『j-fashion journal』著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。「感情が傷つく」という曖昧な基準で、日本をイメージする服装を規制するならば、中国を植民地化した英国発祥のスーツに感情的な抵抗はないのかと疑問を呈します。そして、安心して着用できる「標準服」導入を提案し、「くれぐれも、欧米のラグジュアリーブランドなどを身につけないように」と皮肉っています。

中国共産党は服装もコントロールする

1.中華民族の感情を傷つける服装の禁止

中国政府は、「中華民族の感情を傷つける服装の禁止」を盛り込んだ法改正案を公表しました。改正案では、発言や服装が「中華民族の精神を害する」もしくは「国民感情を傷つける」と見なされた場合、罰金刑や禁錮刑の対象となるとされています。

改正案については、9月30日まで意見公募を実施しています。そこに寄せられた主な意見は、「誰に決定権があるのか、判断方法などを決めるには時間が必要だ」「法改正を進めるなら、判断基準を慎重に考えるべきだ」、などです。

どのような服装が中華民族の感情を傷つけるのでしょうか。これまで、「ゆかた」を着ていて逮捕された事例があるので、日本をイメージする服装は規制されそうです。また、以前から習近平主席は、「男は男らしく、女は女らしくあるべきだ」という意見を持っています。実際、スカートを履いていた男性が逮捕されるという事例も起きています。

「中華民族」という定義も曖昧であり、「感情を傷つけられる」という定義も曖昧です。曖昧にしているのは、政府当局や公安が「その服装はけしからん」と判断すれば、法律違反にしたいということなのでしょう。

2.民族衣装の着用はフォーマル

欧米では、民族衣装の着用は、フォーマルとして扱われます。「ゆかた」も民族衣装と見なされるので、海外のフォーマルな場に「ゆかた」を着ても失礼には当たりません(日本国内では批判されると思いますが)。

例えば、日本の総理大臣の奥様がきものを着用して訪中した場合、中華民族の感情は傷つくのでしょうか…。他国の民族衣装で感情が傷つくとしたら、中国は、大きな国家的トラウマを抱えていることになります。

中国でも剣道人口は少なくないのですが、剣道着と袴のスタイルは感情を害さないのでしょうか。インドの民族衣裳、イスラムの民族衣装に対して、中華民族が感情を害されることはないのでしょうか。インドは中国の経済的ライバルとして台頭しているので、政府が対立すれば、中華民族も感情を害するかもしれません。

中国は自らの民族衣装を捨て去り、国際標準の洋服に切り換えましたが、それについて感情的な抵抗はなかったのでしょうか。中国を植民地化したイギリスがルーツであるスーツを着用することについて、どのように考えているのでしょうか。疑問は限りなく浮かんできます。

今回の法律改正は、文化的な理由ではなく、政治的な理由によるものです。国民の服装を規制しないと安心できないのは、政府の自信の無さからくるのでしょう。私には、日本風の服の存在で、中華民族の愛国心が影響を受けるとは思えないのですが。

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