「この人しかできない」を街の中心で。参加者の“価値観を壊す”アート表現のこと

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10月27日から3日間、「超福祉の学校@SHIBUYA~障害の有無を超えて、共に学び、創るフォーラム」が渋谷ヒカリエを主会場に開催され、インターネットでも配信されました。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者で、生きづらさを抱える人たちの支援に取り組む引地達也さんは、今年3つのシンポジウムを視聴したとのことで、今後、数回にわたり、各シンポジウムで語られたことや新たな気づきについて報告を予定。今回は、重度知的障がい者の行動を「表現」と捉え、価値観を壊す「アート」として発信する浜松市のNPO法人の活動を紹介し、「共に生きる」ことについて考えています。

「共に学ぶ」の先の「生きる」に価値観崩すアートの破壊力(上)

「障害の有無を超えて、共に学び、創るフォーラム」超福祉の学校(主催・NPO法人ピープルデザイン研究所、共催・文部科学省、渋谷区、東京都教育委員会)が10月27-29日、渋谷区のヒカリエを会場としてインターネット配信で開催された。

2018年度から同法人と文科省共催で始まったイベントは、2021年から発信地域として渋谷区、2022年には文科省が事業委託する「共生社会コンファレンス」の一環として東京都教育委員会が加わった。

私自身、第1回目から参加し、ここから「新しい福祉」「新しい取り組み」をキーワードにした多くの出会いがあり、その出会いは「障がい者への学び」の提供に活力を与え、具体的な協働を継続しているものもある。

それは私だけではなく、参加した人どの人にも起こる変化、化学反応であり、常に新しさを追究してきたイベントだからこそ、期待感は大きい。

今年もシンポジウムのタイトルには新しい切り口が並ぶ。今年、私は「『共に学ぶ』の先にある『共に生きる』を考える」「Z世代とつくるインクルーシブな場」「大学生発!みんなのマナビ、私のマナビ」を視聴した。この報告を本コラムで数回にわたりお伝えしたい。

「『共に学ぶ』の先にある『共に生きる』を考える」のテーマは、障がい者の学びを「真剣に」考える際に行き当たる根源的なテーマである。「学ぶ」とは何か、学ぶとは誰に向けられたものなのか、誰が何のために、何を目的にするのか─。

障がい者の学びを実践するには、これらのテーマを検討することで、その意義づけが浮かび上がってくる。その中の主要テーマであるのが「共に生きる」である。

進行役の神戸大の津田英二教授は「共に生きることができていないから、『共に生きる』がテーマになる。共に学べていないから、『共に学ぶ』がテーマになる」と指摘し、ユネスコのハンブルク宣言「人間中心の開発と参加型の社会だけが、持続可能で公正な発展を導く」、障害者権利条約の24条「障害者を抱擁する、生涯学習を確保する」と小項目である「障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること」を紹介。

「共に生きる、学ぶを考える時にここに立ち返るのが必要」と説き、静岡県浜松市のNPO法人クリエイティブサポートレッツの活動を素材にして、すべての人が自由な社会に効果的に参加するのを学んでいこう」と呼びかけた。

同法人の代表、久保田翠さんは冒頭、自分たちを「アートのNPOだと思っている」と定義づけし、絵を描いたりではなく、社会の価値観を壊していく、疑っていくのが、役割、だとの認識を提示した。これは参加者の価値観をまさに壊したであろう。

自身の経験として「たまたま重度の知的障害の子を産みました。この誕生がレッツを立ち上げるきっかけになった」と話す。彼が袋などに石を入れて、それを叩くのが好きとのことで、これが学校では問題行動とされたという。

「(彼が)学校でできたことは一つもありません」と断言し、発語ができない彼にとって石を入れてたたき続けるのが彼しかできない「表現」だと説明した。

現在運営する福祉施設では、世の中では無駄にしか思えない行為を「彼しかできない」行為と位置づけ、同施設である「たけし文化センター」では「たたき続ける行為は守られる」と話した。この考えのもと、同法人で運営する3か所では福祉、文化センターが併設し「多様な人が集まってごちゃごちゃやろう」というのが狙い。

この場所を浜松の中心市街地に置くのも大きな意味があるという。通所する重度知的障害者には「作業はありません」。その市街地のど真ん中で「一日中好きなことをやる」ことが、基本的な考え方である「ありのままを認める存在を尊重する」ことであり、これをアート表現として「表現未満、」な存在、として発信している。

例えば、毎日水をかぶる行為をする青年、自分のルーティンをもくもくと行う人は壁にカレンダーを作る、床に絵を描く人、短冊のようなものを作り続ける人。これらはすべて「表現未満、」として当たり前に肯定される。それが街の真ん中にある、のである。

久保田さんは、「共に生きる」ことは「難しい」としつつも「その人を理解するからお互いに知り合う。まずは、彼の行為は何かを話す機会を設ける」から始まるとし、そのために同法人では配信や「玄関ライブ」「クラブ・アルス」のイベントを実施していると説明した。この機会を含めて「共にいるだけで学びになる」との経験を紹介した。

「タイムトラベルツアー」は有料で障がいのある人がひたすらそこにいる、ただただ彼らが寝ている、そんななまなましい姿を見るツアー。参加した偏差値の高い大学の学生7人は、障がい者を知らないところから100時間障がい者と過ごし、7人中4人が変わった、という。

親から期待された就職の選択から一回立ち止まって考えたとのことで、いったい何が彼、彼女を変えたのだろうか。(つづく)

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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