「パンデミック条約でワクチン接種を強制される」のウソ
さて、今回、参政党を眺めなおす過程で、ひとつ勉強になったことがあるので最後に紹介しておきたい。
参政党支持者を中心とした反ワクチン活動を続ける人々のなかで、盛んに話題になっている「パンデミック条約でワクチン接種を強制される」「WHOに国家の主権を奪われる」などの警告についてだ。
パンデミック条約とは、WHOの強化を図るために議論されている新しい条約のことだ。採択された場合、WHOに加盟するそれぞれの国内で承認が得られれば、発効される。
同時に、WHO加盟国に適用される「国際保健規則(IHR)」の改定も進んでいる。
弁護士の楊井人文氏が、実際の条約改正案を読み込んで解説しているので、興味のある人はそちらを読んでみてほしいが、少し説明しておこう。
● パンデミック条約でワクチン強制は本当?それより警戒すべき条文とその理由
楊井氏によれば、パンデミック条約もIHRも、最新の条約案にワクチン接種の義務化や強制につながるような条文はまったく見当たらないという。
国家主権を剥奪するような条文もない。
逆に「国家主権の尊重」を確認する条文があり、WHOの権限を強化する内容ではあるものの、加盟国はWHOの勧告に従う義務も、従わないからといって制裁を加えられる仕組みもないらしい。
なんだ……。
一体どういう経緯を経て「ワクチン強制」「WHOに主権を奪われる」という説が生まれたのかはわからないが、「緊急事態条項ができれば徴兵され、虐殺される!」的な、「パンデミック条約コワイ!」というイメージが生み出した、反ワクチンの突飛なスローガンだったということだ。
それよりも、楊井氏が危惧するのは、パンデミック条約18条の「虚偽の、誤解を招く、誤情報又は偽情報と闘う」という文言だという。
誤情報や偽情報は、混乱を招き、健康を害する危険な行動を引き起こし、保健当局への不信を招くので、世界レベルでそれに対抗する能力を強化するというような内容が記載されているのだが、一体誰が、どの段階で誤情報・偽情報と判定するのか、どんな対抗をするのかも決められていないのだ。
仮に現在のままで採択され、国内で批准されると、それを根拠に河野太郎のような政治家が「誤情報・偽情報撲滅法」のようなものを目指しはじめかねない。
条約は議論中で、何度も変更されているため、常に最新版の条文案を追わなければならないが、この点には注目しておいたほうがよいだろう。
参政党や日本保守党が、こういうところに緻密に着目して、発信してくれる政党なら助かるのだが……。
(『小林よしのりライジング』2023年11月7日号より一部抜粋・文中敬称略)
2023年11月7日号の小林よしのりさんコラムは「ジャニーズ問題:マスコミの〈検証〉」。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。
この記事の著者・小林よしのりさんのメルマガ
image by: image_vulture / Shutterstock.com