ただの“搾りカス”?世間に流通する「ノウハウ」との正しい付き合い方を文筆家が考察

 

■ノウハウとは何か

「ノウハウ」とは「Know-how」のことであり、どのように行うのかについての知識です。もちろん、ここで「Know」の解釈が問題になります。Know=知っている、とはどのようなことなのか。もう少し言えば、howをknowしているとはどういう状態なのか。

たとえば私は「フーリエ変換」という言葉を知っていますし、その意味も(ググれば)すぐにわかるでしょう。しかし、何かしらの数式をみたときに「ああ、これはフーリエ変換をしたら求める数式が得られるな」と思いつくことはありません。そもそも、その変換を自分の手で行ったことが一度もないからです。

その意味で、私は「フーリエ変換」という言葉はKnowしていますが、「フーリエ変換」という手法のKnow-howは持っていないと言えるでしょう。言い換えれば、「具体的にそれをどう行うのかが身体化されている状態」が、howをKnowしている状態だと言えます。

この観点に立てば、誰かが発表するノウハウというのは、当人が身体化している方法についての情報です。ノウハウそのものというよりは、ノウハウについての情報なのです。その二つを区別するためにそれをKnowledge-howと呼ぶことにしましょう。

■ノウハウについての情報

Knowledge-howは、ノウハウについての情報なので、それを取得しただけで自分にノウハウが身につくわけではありません。あくまで「ノウハウについての情報」をKnowするだけなのです。

ノウハウは、摂取した情報からではなく、常に自分の実践の結果として得られるものです。何かしらを身体化する上で、そうした実践を避けて通ることはできないでしょう。

しかし、Know-howとKnowledge-howが、共に「ノウハウ」と呼ばれるのでその区別が曖昧になっています。あたかも「ノウハウについての情報」を読めば、身体化された方法が取得できるような感覚があるのです。しかし、それは幻想です。

他の人から提示される「ノウハウ」は、あくまで情報(Knowledge-how)に留まっており、自分でノウハウを身につけるのには、実際に手を動かすことが避けられないのです。

■不完全な情報

もう一点押さえておきたいのは、Knowledge-howというのは、発表者が身体化しているKnow-howについての発表であり、そこで十全に情報が開示されているとは限らない、ということです。

そもそも何かしらが「身体化」しているとは、それが意識に上らなくなっている状態を指すわけで、その一部始終を言葉として表現すること自体に限界があります(言葉にするには意識の対象にしなければならないので)。

その上、実践者が意識していない前提や環境があるかもしれません。つまり、本来はそのKnow-howに含まれているのだけども、あたかもそれとは関係ないように扱われてしまっている情報がありうる、ということです。

そうした点をもろもろ加味すると、Knowledge-howは、Know-howについての情報であっても、Know-howについての完全な情報とは言えない、ということがわかります。その情報だけで、実践を完全に再現できる保証もないわけです。

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