ただの“搾りカス”?世間に流通する「ノウハウ」との正しい付き合い方を文筆家が考察

 

■騙されたと思って

最後のアプローとして、不完全であろうがともかく提示された情報の通りにやってみる、という動機づけとして利用することがあります。

前述した通り、ノウハウを習得するには実際にやってみるしかありません。どれだけ情報を見聞きしても、それだけではノウハウの習得は不可能なわけです。

その点を考えると、何かしらのノウハウ(Knowledge-how)を示されたときに、「よしこれならやれそうだ」という気持ちになり、実際に何かをやってみることが始まるなら、その情報はかなりの「仕事」を為していると言えるでしょう。

仮にそのKnowledge-howが不十分であり、そこで提示された情報だけでは十全に行為の達成が為せないにしても、「やろう」という気持ちになり、実際に取り掛かってみることが生じるているだけで、価値としては相当に大きいものです。それくらい実践してみることは大切なのです。

まず、「やろうと思う」ことが難しく、次に「実際にやること」はさらに難しくなります。だからこそノウハウを身につけるのは難しいのです。

その意味で、その一歩がどのような一歩であれ、まず一歩を踏み出すことが可能になったというのならば、ノウハウ(Knowledge-how)は、有益な価値を持っていたと言えます。いわば、行為を促す触媒として捉えるわけです。

結果的に、そのノウハウをやってみてもぜんぜん上手くいかなかった、ということは十分に起こりえるでしょう。しかし、その結果は無益なものではありません。そうした実際の経験からわかることはたくさんあるはずです。

実際、一時期のブームでGTDに挑戦した人の多くは、結果的にそれに挫折しているでしょう。しかし、挫折したとしても経験として得られているものはたくさんあるはずです。一部の技術は身体化したかもしれません。何が問題なのかをちょっとは理解できたかもしれません。その全体を見れば、挫折に至るまでのプロセスだって無駄だとは言えないでしょう。

妙な話になりますが「よし、これならやれそうだ」というのは一種の勘違いです。誤謬。不合理。でも、そういう気持ちを抱けるからこそ為せることがあります。はじめから「どうせ失敗するから一度もやらないでおこう」と経験の可能性を捨てることに比べれば──だいぶ残念な気持ちを得ることになっても──、実際に何かやってみることの価値は大きいものです。

その点を考えても、他人のノウハウ(ついての情報)はたいへん役立ちます。あるいは役立たせることができます。

■さいごに

こうしたノウハウについての観点、つまりメタ・ノウハウについての検討はあまり行われてこなかったのではないでしょうか。

義務教育の場合は「正しいやり方」を学ぶことが重視され、社会に出たら出たで玉石混交のノウハウに囲まれるのが現代社会です。そうした社会の中にあって、「ノウハウ」といかに付き合うのかは存外に重要性を増しているように感じます。

今後も引き続き、この話題については考えていくとしましょう。

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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