現実味を帯びてきた「トランプ再選」米の同盟国・日本に問われる“大きな覚悟”

2024.02.01
 

米国の「世界の警察官」「世界の市場」戦略で恩恵を得た国

米国の「世界の警察官」「世界の市場」という戦略で最大の恩恵を得たのが、日本とドイツだったことはいうまでもない。第二次世界大戦後、日本と西独の軍事大国化を防ぐために、再工業化は行わない方針だった。しかし、その方針は東西冷戦の勃発で転換された。日本は、南北に分断された朝鮮半島に近接し、アジアで共産主義ブロックと対峙する前線となり、ドイツは、自由主義圏と共産圏に分断されて、西ドイツは直接的に共産主義ブロックと向き合う最前線となったからだ。米国は、両国を再度工業化して防衛力を強化した。日本と西ドイツは「奇跡的な高度経済成長」を成し遂げた。そして、日本と西ドイツは、近隣諸国から搾取する必要がなくなった。

また、米国から恩恵を受けたのは日本と西ドイツだけではなかった。例えば、フランスとドイツは、お互いを警戒する必要がなくなった。スウェーデンやオランダなどの中規模の国家は、防衛に最小限の努力を割くだけでよくなった。

世界中の貿易路の安全が保障されたことで、さまざまな土地を占領する必要がなくなった。例えば、最古の小麦生産地エジプトは、過去2000年で初めて、自由に息がつけた。

世界中に散らばるヨーロッパの植民地が解放された。東南アジア諸国連合(ASEAN)が設立された。韓国、台湾、シンガポールが経済国として台頭した。中国は、史上初めて外敵の脅威にさらされることなく、安全な環境で国の基盤を固めることができるようになった。これらはすべて、トランプ以前の米国の覇権によって達成されたことだったのだ。

トランプの思い付きではない「世界の警察官」からの脱却

次に、トランプ政権の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」が、米国をどう変えて、国際社会に何をもたらしたかを考えたい。大事なのは、米国が「世界の警察官」を続けることに関心をなくし、世界から少しずつ撤退を始めていることは、トランプ大統領の思い付きではなく、バラク・オバマ大統領の時代から始まったものだということだ。

バラク・オバマ大統領(当時)は、2013年9月に対シリア内戦への軍事不介入声明を発表した際、「もはや米国は世界の警察官ではない」と宣言し、中東からの米軍撤退、将来の韓国からの米軍撤退(公表)、2020年から2026年の間に沖縄から海兵隊を含む全米軍撤退(非公式)、NATO(北大西洋条約機構)の閉鎖または欧州中央軍への統合、中南米、アフリカ地域からの米軍撤退等々を打ち出した。

言い換えれば、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」は、「世界の警察官をやめていく」という、米国内の党派を超えたコンセンサスを極端な形で実行しようとしたものだといえる。

また、「アメリカ・ファースト」の背景には、米国がいまだに世界最強の圧倒的な軍事力・経済力を誇っているという事実があることを忘れてはならない。決して弱くなったわけではない米国が「世界の警察官」をやめる背景には、「シェール革命」がある。

「シェール革命」とは、主に米国で生産されるシェール石油・ガスによって、米国が世界最大の石油・ガス産油国となったことによって起きた、米国内と国際社会の劇的な変化である。米国は、自国のエネルギー資源確保のために世界中のシーレーンを守る必要が少なくなった。加えて、同盟国のために、シーレーンを守ることを負担に感じるようになり、「世界の警察官」をやめようとし始めているのだ。

そして、世界最大の産油国・産ガス国となった米国は、実は「過去最強」といっても過言ではない。エネルギー資源を世界中から確保しなければならない弱みがなくなるからだ。むしろ、「世界の警察官」としての節度を捨てて、その圧倒的な力を遠慮なく使う米国は、まるで「世界の暴力団」になった。

だが、トランプ大統領は気まぐれに振る舞ったわけではない。言動を振り返ると、彼ほど、戦争を徹底的に嫌った米大統領は過去いなかったことがわかる。アメリカ・ファーストの考え方では、外国と戦争することほどカネの無駄遣いはないからだ。武力など使わなくても、「経済制裁」をチラつかせて交渉すれば、他国を押さえられると信じていたのだ。

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