現実味を帯びてきた「トランプ再選」米の同盟国・日本に問われる“大きな覚悟”

2024.02.01
 

「トランプの返り咲き」で問われる日本の覚悟

トランプ政権下の米国で起こったことは、米国が覇権国家の座から少しずつ降り始め、「世界の警察官」「世界の市場」であることから具体的に撤退し始めたということだ。その結果、米国から恩恵を受けてきた国が、米国との関係を悪化させた。また、米国の覇権の下で安定していた地域で、再び近隣同士の関係が不安定化したのだ。

トランプ大統領は、「戦争」の高リスクを嫌っていたので、その在任中、国際社会で大きな紛争が起きなかった。しかし、大統領退任直後の2021年2月にミャンマーで軍による民主派を排除するクーデターが起こった。8月には、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧し、大統領府を掌握した。そして、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻する「ウクライナ戦争」が勃発し、2023年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルへ攻撃を仕掛け、イスラエルが外規模な報復を行っている。

これらの地域紛争が、様々な地域における米国のプレゼンス低下の「空白」で起こっていることは否定できないだろう。戦争を嫌った「アメリカ・ファースト」の皮肉な現実だ。

現在、世界中で起こっている紛争は、ある地域において、より強い力を持つものが、力の弱いものを攻撃し、強引に「現状変更」を迫っているという共通点がある。端的に言えば、様々な地域で「弱い者いじめ」のような状況が次々と生じているのだ。この現状で、日本が最も警戒しなければならないのは、「台湾有事」であることはいうまでもない。

そして、日本はどうなるのか。トランプ政権下において、日米関係は過去最高に良好であったという評価がある。しかし、それは安倍晋三元首相がトランプ大統領には一切逆らわず、ゴルフなど接待漬けにしていたからだというが、そんな話ではない。

「アメリカ・ファースト」でトランプ大統領が「バイ・アメリカ!(アメリカを買え!)」と諸外国に圧力をかけていた。では、実際にどこの国が米国製品を買い、米国に投資できるのか。自由民主主義陣営の同盟国では、それは日本しかいなかった。だから、トランプ大統領は、日本をないがしろにはできなかった。

バイデン政権でも、引き続き日米関係は良好だ。岸田政権の「防衛費倍増計画」など安全保障政策の劇的な転換の方針がバイデン政権に高く評価されている。だが、トランプ氏が大統領に復帰したら、良好な関係が続くとは限らない。日本に「バイ・アメリカ!」を続ける経済力が残っているのかということだ。様々な地域紛争による資源・食料の供給不足に端を発したインフレが続き、日本経済は打撃を受け続けている。日本が生き残るには、経済成長は絶対に必要だ。

また、日本を取り巻く安全保障環境が、トランプ氏にとって、非常に「コスト高」に映る懸念がある。台湾有事は、まさに「地域において力の強いものが力の弱いものに強引に現状変更を強いるもの」だ。最も、次に起こりえる紛争であることは間違いない。

トランプ大統領が再び誕生したとしても、米国がすぐに台湾の防衛から手を引くことはありえない。ただし、日本に対して、より大きな軍事的負担を求めることは容易に想像できる。

米国が本気で要求してくれば、それに抗するのは難しい。日本は、それを受け入れる準備ができているのだろうか。トランプ大統領の米国が再び現れた時、それと正面から対峙する覚悟があるかどうか、日本に問われている。

image by: Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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