台湾人も標的に。トランプ返り咲きで復活するスパイ狩りの無法

New,York,,Ny,-,September,26,,2018:,President,Donald,Trump
 

今年11月のアメリカ大統領選挙で、再選の可能性が高いとも言われるトランプ前大統領。返り咲きとなればこれまで以上の中国への強硬姿勢を取るとの見方もありますが、その「悪影響」は中国のみに止まらないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、トランプ再選で復活するとされる「チャイナ・イニシアチブ」について詳しく解説。その苛烈な「スパイ狩り」の手口を紹介するとともに、世界に与えるダメージを考察しています。

トランプ人気が吹き荒れるなか、習政権が懸念する「中国人スパイ」取り締まり強化の復活

イスラム武装組織・ハマスとの交渉のためイスラエルのモサドやエジプトの情報機関と協力し奔走する米CIAのウィリアム・バーンズ長官。そのバーンズの寄稿が話題となっている。

米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(電子版)に掲載され、今月2日に様々なメディアが取り上げた。その目玉は、「中国対策予算を2年間で2倍以上にした」と明らかにしたことだ。

ここ数年のトレンドを考えれば、とりたてて騒ぐ内容でもないが、「中国」と名が付けば予算の獲得がいとも簡単にできる現実が透けて見えて興味深い。

共同通信は2日付の記事で、バーンズが「中国に関する情報の収集や分析に注力し、中国語を話せる人材の登用や育成を進めている」(1月30日の記事)と報じたが、これも意味深だ。

一つには中国側がアメリカのスパイ網を一掃したとされる問題への対応のためだと考えられるが、一方では純粋に「中国が見えていない」ことへの対処もあるのだろう。どの国も中国批判に躍起だが、その一々があまり的外れで攻撃される中国側を戸惑わせている。

いずれにせよ中国へのスパイ疑惑がより強まるという話だ。思い出されるのは2018年、トランプ政権下で始まった「チャイナ・イニシアチブ」である。

チャイナ・イニシアチブとはトランプ政権の対中強硬策の目玉であり、ジェフ・セッションズ司法長官(当時)が音頭を取りスタートさせた、ある種の「スパイ狩り」だ。

背景には、ドナルド・トランプが反中国・反共産主義を掲げて大統領選挙戦を展開したことがある。「中国が我々の国をレイプするのを許し続けるわけにはいかない」というトランプの発言は有名だ。またマール・ア・ラーゴで開いた非公開の夕食会では、企業幹部の一団に「この国にやってくる(中国人)学生のほとんどがスパイだ」と語ったという逸話も残る。

そのトランプが再び大統領候補となる可能性を高めたことでチャイナ・イニシアチブの復活が危ぶまれている。中国にとっては頭の痛い問題だ。

だが、これも単純な話ではない。というのも中国の懸念は主に、アメリカが中国人スパイの摘発に力を入れることに向けられるのではなく、その手法にあるからだ。

世界の二大経済大国が鎬を削れば、当然のこと相手を探る動きも活発化する。水面下で米中が苛烈な攻防戦を繰り返していることも想像に難くない。

企業の機密を摂取する産業スパイを主眼にしたチャイナ・イニシアチブが、その範囲にとどまらずサイバー攻撃やハッキング、宣伝工作やロビー活動までをターゲットに展開されたのもうなづける。

だが、問題はその攻撃がピンポイントにターゲットを切除するといった優秀な外科医の手際とはならず、広く網をかけて健全な両国間の交流にまでダメージを及ぼしてしまうことにある。

個人レベルでは大量の冤罪を生み出し、大きな枠組みでは通常の経済活動や研究にも大きな影響が避けられなかった。

チャイナ・イニシアチブの失敗については米誌『MIT Technology Review』の「混乱する米国の対中強硬策、チャイナ・イニシアチブのお粗末な実態」(2022年1月18日)に詳しい。

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