世界各国が研究を進める、ヒトへの臓器の異種移植。そんな中にあって明治大学発のベンチャー企業が、アメリカのバイオ企業が開発した「ヒトに臓器移植しても拒絶反応が起こりにくいブタ」の細胞からクローンを作製し、2月11日に3頭の子豚が生まれたことが報じられ、大きな話題となっています。このブタからヒトへの異種移植が可能となり一般的に普及されれば、人間の寿命も大きく伸びることが期待されることとなりますが、もしそのような社会となった場合、「人生100年時代」と言われる現在よりもさらに先を見据えた人生設計が必要となるのもまた事実です。今回、ボディビル全米大会の覇者であり“筋肉博士”の異名を持つ山本義徳さんは自身のメルマガ『博士の「Optimal Body 研究所」』で、飛躍的に寿命が伸びた人間は、どのような人生を送ることになるのかについて考察しています。
不老不死実現へ研究、コンピュータへの「意識移植」
今回は趣向を変えて哲学的な話をしたいと思います。テーマリクエストに「今後、人は何歳まで生きられそうか。それによって人生設計が変わるかもしれない」という内容のものがあり、合わせて私の考えをお伝えしていきます。
SFなどで良く出てくるのが、ヒトの意識をコンピュータに移植するというものです。
これが可能ならば、バックアップを取っておけば事故などで死んでも簡単に生き返ることができます。
しかし問題は、「移植された意識は、今の自己意識とは別である」ということです。
アップロードすると同じ自分が二つ産まれることになり、今の自己意識がいつか消失するのでは死と同じであり、意味がありません。
すなわち求められるのは意識の連続性を保ったままアップロードする技術ということになります。
それに挑戦しているのが日本人だと渡辺正峰氏で、「ブレイン・マシン・インターフェイス」の開発によって意識の科学的解明、そしてアップロードを狙っています。
しかし意識は本当に移植できるのでしょうか。
ここでは「意識は電気信号である」という前提があります。
電気信号と言うことは1+1が2になるという計算が幾度もなされ、その結果によって意識が発生しているということです。
そして意識はニューロンを単位として生じています。
これは古典物理学です。
この場合、AIがいつかは意識を持つことになります。
いっぽうで筆者が私淑するロジャー・ペンローズは「量子脳理論」を提唱しています。
意識は微小管の構造に存在し、波動関数の収縮によって意識が生じるとします。
興味のある方は『皇帝の新しい心』をお読みください。
こちらは量子力学です。
量子力学において事象は「重ね合わせ」の状態で存在し、観測によって波動関数が収縮し、事象が決定されます。
これをコペンハーゲン解釈と呼びます。
ちなみにペンローズは観測とは無関係に波動関数が収縮すると主張し、この収縮の過程で意識が産み出されるとしています。
また波動関数の収縮は起こらず、多様な重ね合わせの先に干渉性を喪失し、複数の世界に分岐していくとする多世界解釈という考え方もあります。
意識が古典物理学の範囲で存在できるのならば、理論的にアップロードは可能です。
しかし量子力学の範囲にあるとすると、かなり難しくなります。
ブタの臓器をヒトに移植、3Dプリンタで臓器製造も
しかしいつかは実現できるとしましょう。
そのような未来まで生き残ることが大事ですが、そこで「コールドスリープ」という可能性があります。
つい最近も「永久凍土から4.6万年前の線虫が生き返る」というニュースがありました。
2009年にはカリフォルニアのチームがウサギの腎臓を冷凍保存した後に解凍し、ウサギに戻したところ異常はなかったと報告しています。
2020年には日本のチームがマウスを冬眠に誘導することに成功しています。
コールドスリープは多くの機関が本格的に研究しており、近い将来に可能になるかと思われます。
問題はコールドスリープで100年イケるとしても、それを証明できるのは100年後になるということですが。
そこまでいかなくても、この原稿を書いている2023年の時点で「豚の臓器を人間に移植して少なくとも1カ月以上問題なし」という研究が話題となっています。
またドイツからの発表では、心筋細胞にコラーゲンタンパク質とヒアルロン酸を混ぜた「バイオインク」を調製し、ゲルの中に3Dプリンタからバイオインクを注入して心室を模した組織を作成したところ、自発的な拍動が100日以上継続しているとのことです。
このように3Dプリンタの発展もあり、脳の機能を落とさずに臓器を取り換えていくことで、かなり寿命は延ばせると思われます。
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