目先の「カネ」だけに奔走した大きなツケ。若手教員の高離職率は「働くことの真理」を失った時代の象徴か

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メディアでたびたび報じられている、深刻な教員不足がもたらすさまざまな問題。そんな中にあって、将来を嘱望される若手教員たちが続々と現場を去っているという事実をご存知でしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合さんが、その原因と若い人材の離職を少しでも減らすための方策を考察。かつて現場のベテラン教師から直接聞いたという言葉を「ヒント」として誌上で紹介しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

若手が辞める理由とは?

若手教員の離職率に歯止めがかからない状況が続いています。

21年度中に離職した教員数は公立小学校で1万4,973人、中学校で8,448人、高校は5,580人。このうち精神疾患を理由に離職したのは小学校571人、中学校277人、高校105人で、09年度の1.6倍にのぼりました。

また、東京都教育委員会が2022年度に採用した新人教諭2,429人のうち、108人が年度末までに退職し、離職率は4.4%で過去10年間で最も高かったこともわかっています。

そこで東京都教育委員会は「ただでさえ教員不足なのに!なんとかしなきゃ!」と、若手との接し方をガイドブックにまとめ、公表しました(タイトル『若手教員5280人の声と専門家の視点から読み解く職場作り――教職員のためのコミュニケーションガイドブック』)。

若い世代とのコミュニケーションに悩む昭和おじさん・おばさんは、ありとあらゆる企業にいますが、子供にコミュニケーションを学ばせる立場の教師に、“ガイドブック“が必要な時代になってしまったとは。切ないやら、情けないやら。ガイドブックはないよりあったほうがいいとは思いますし、件のガイドブックでは若手教員にアンケート調査を実施するなど、現場の声を生かす側面もあるので、とても意義のある冊子に仕上がっています。

しかし、問題は本当に“そこ“なのでしょうか? もっと根深い問題があるのではないでしょうか。

例えば、今の若者たちの多くは「一人っ子」です。1970年代前後から30年以上、きょうだいの数は2.2人前後で安定していましたが、2005年に2.09人に減少し、2010年には1.96人と2人を割り込みました。

そこに「子供の個性を伸ばせ!」だの、「褒めて育てろ!」だのといった英才教育本が普及し、親たちの「子への期待」は過熱します。親も格差拡大を肌で感じているので、余計に「子供に苦労させないようにしなきゃ!」と英才教育熱は拡大しました。

その結果、昭和時代はお父さんの指定席だった家庭の主役を子供が取って代わり、親からチヤホヤされて育ったのが、今の「平成の若者」たちです。

しかし、当然ながら会社には、チヤホヤする人もいなけりゃ、上司は部下に嫌われるのを恐れて必要以上に関わらない。父親のように見守ってくれた「油を売るおじさん」も、慰めてくれる“夜の看護師”も消えました。

夜の看護師とは“ママさん”のこと。昭和の会社員は行きつけのバーやスナックで、“戦場で傷ついた羽”を人生経験豊富なママさんに癒やしてもらいましたが、今は仕事帰りに一杯やるカネもなければ、「それでいいのよ」と励ましてくれるママさんもいません。

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