「年末年始らしい気分」とは「準備」への「対価」だと気づいた話

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子どもがいる家庭といない家庭で大きく違うことの一つに、年中行事を楽しむか否かがありそうです。正月に凧を上げ、かるたや福笑いで遊ぶ大人ばかりの世帯や、節分の豆撒きで鬼役をするDINKs世帯の夫の話はほとんど聞いたことがありません。それでも年末年始くらいは「らしい気分」を味わいたいという人も多いのではないでしょうか。今回のメルマガ『8人ばなし』では、著者の山崎勝義さんが、何年も「年末年始らしい気分」を経験していないと告白。その理由を掘り下げて、人生に彩りを添えるには「準備」が必要だったのだと述懐しています。

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気分のこと

もう何年も年末年始らしい気分を経験していない。この原因については実は自分でも疾うに分かっている。自分が悪いのである。誤解のないように一応断っておくが、別にクリスマスから年末年始にかけて続くどことなく明るい感じを嫌悪している訳ではない。むしろこの間どことなく明るいままに変化していく街の雰囲気は逆に好きなくらいである。

では何故、特段厭世的になった訳でも、原理主義的宗教観に目覚めた訳でもない人間が「年末年始らしい気分」になれないのか…理由は存外簡単である、私が横着になったからである。

どの年中行事においてもそうだが「らしい気分」になるために欠かせないことが一つあって、それが横着者にとってはなかなかに高いハードルなのである。他でもない「準備」である。

クリスマスならツリーを飾り、家を電飾し、そこら中を赤と緑と白にする。年末ならまずは大掃除、同時進行で新年の準備のあれこれ、そのほとんどが所謂縁起物と呼ばれるものだから作法もそれなりには厳しい。ギリギリでの辻褄合わせは通用しない。しかもどんなに金に余裕があっても他人や業者任せでは意味がない。どんなに面倒でも自分たち自身の手でやることが大事なのである。

そうやって手間と暇を十二分にかけた人だけがその瞬間、あるいはその期間に感じることができるのが、この「らしい気分」なのである。「らしい気分」とはある種のご褒美なのである。あるいは特殊な労働対価と言ってもいいのかもしれない。子供がはしゃぐのも当然である。誰よりも準備(子供にはこれが全く苦にならない。それどころかむしろ楽しいまである)期間が長いのだから。

逆に、これらの手間暇を惜しめば惜しむほどに「らしい気分」は小さくなって行くというものである。例えば、餅も個別包装された袋詰めの物をスーパーで買って来るのではなく、自分の家でホームベーカリーか何かででも作ってみればきっと楽しいに違いない(横着者の想像に過ぎないのだけれど)。さらに杵と臼で搗いてみたらもっと…(これこそ絶対にあり得ないレベルの横着者の想像に過ぎないが)。

このように横着になるということは、まあまあそれなりの代償を支払うということなのである。とは言っても、前にも述べた通りある種労働対価的なものでもあるから別に損をしている訳でもない。何もしていないから何もないだけのことである。

ただ人生から色味が抜けていくのは確かだ。自分は横着者だから、と嘯いて手間や暇をかけることを省くほどに少しずつか、あるいは一色ずつ、その色味は消えて行ってしまっている。この調子でいけばジジイになる頃にはすっかりモノクロームであろう。

ならばもっと準備に手間と暇をかければいい、となるのではあるが、どうしても(本当にどうしてもなのである)自分が笑顔で餅搗きをしている画など全くもって想像の埒外なのである。それどころかリアルに気持ち悪いレベルである(これも一周回って滑稽まで行けば、まだましなのだろうが)。

幸い自分は白黒映画は嫌いではない。くすんだカラーも割と好きだ。そういう訳で、これからも土日祝日盆暮正月クリスマスも「as usual」で行くのであろう。きっと死ぬまでそれで行くのであろう。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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