虫の告げ口で寿命が縮む?今年の干支、申にまつわる言い伝え

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今年の干支は「申(さる)」です。昔から庚申の日にはとても興味深い信仰の歴史が数多くあり、今なお現在も続いています。代表的な例では、京都の「庚申さん」で知られる八坂庚申堂、東京の庚申信仰で有名な浅草寺や柴又帝釈天などです。そんな庚申にまつわる話を、無料メルマガ『おもしろい京都案内』で紹介しています。これを読んで、あなたも近くの庚申信仰のお寺をお参りしてみませんか?

八坂庚申(こうしん)堂と「見ざる、言わざる、聞かざる」

東山の八坂の塔から八坂通りの坂をわずかに下がると、左側にこじんまりとしたいかにも庶民的な朱塗りの門が見えます。小さくてカラフルなお堂が見えるのですぐに分かります。これが、地元で「庚申こうしんさん」と親しまれている八坂庚申堂です。今回はこの八坂庚申堂と今年の干支さる)」にまつわる話をご紹介します。

八坂庚申堂は、日本最初庚申堂として創建され、東京の浅草寺、大阪の四天王寺と共に日本三大庚申の1つです。正式名は、大黒山延命院金剛寺という天台宗寺院で、本尊は青面金剛童子を祀ります。この本尊は、飛鳥時代に渡来した秦河勝(はたのかわかつ)により祀られたものと伝えられています。すぐ近くの八坂の塔も聖徳太子が建てたものなので、この辺りは京都に都が出来る前から人の往来があったのでしょう。

本堂前のお堂にはカラフルなくくり猿が掛けられています。手足を縛られて動けなくなったくくり猿欲望制御抑制することで願いが叶えられるという意味があるそうです。近所に、くくり猿が5つ縦に並んでかけられてる家やお店が多くあります。これは家内安全に「御縁」(五猿)があるようにとのご利益を願ってのことだそうです。

庚申信仰は、元々中国道教の教えから来た信仰です。その後、日本では仏教、神道、修験道等の信仰と結びついていきました。庚申信仰は、元々祀るべく本尊はありませんでした。山王信仰と結びついた庚申信仰は、比叡山延暦寺の鎮守社である日吉大社の祭神・大山咋神(おおやまくいのかみ)を祀りました。日吉神社の神の使いである神使(しんし)は、です。仏教系では青面金剛や帝釈天を本尊に祀るようになりました。神道系では猿田彦神(さるたひこのかみ)を祀ることが多くなっていきます。

そもそも「庚申」とは、干支の「(かのえ)(さる)」の日を意味します。
60年に1度くる年ですが、日にちにも割り振られていて、実は庚申の日60日に1度来るのです。60日に1度くる庚申日の夜に、人の体中にいる3匹の虫が、寝ている間に抜け出すと言われています。そしてこの虫は、寿命を司る神である天帝にその人の行った罪を告げに行くそうです。これを知った天帝は、告げられた罪の罰としてその人の寿命縮めてしまうと考えられてきました。そんな事が天帝に知られたら大変だということで、庚申日の夜は体内から虫が出て行けないよう徹夜する風習が定着していきます。これを庚申祭といい、時代によって「守庚申(しゅこうしん)」、「庚申待(こうしんまち)」等と呼ばれるようになりました。

この風習は、平安時代初期中国から伝わったとされています。その後、貴族の間に広まり、次第に仏教と結び付いていきます。鎌倉から室町時代には武家に広まり、江戸時代には庶民の間でも信仰されるようになりました。江戸時代には、「庚申講(こうしんこう)」という寄り合い組織ができ、酒盛りして一夜を明かす風習になっていきました。お寺の院号「延命院」はこの由来から来ているのでしょう。

先ほど少し触れたように、庚申信仰のシンボル的存在は猿です。その由来は「庚申」の「申(さる)」から来ているとも、山王信仰の神使である猿から来ているとも伝えられています。3匹の虫に罪を告げられないために「見ざる(猿)、言わざる(猿)、聞かざる(猿)」が阻止するという意味だという説もあります。この三神猿は、諸悪を排除して開運招福をもたらすとして庚申信仰の地では必ずどこかに描かれています。

八坂庚申堂は、平安時代の中頃、役行者以来の修験道の大家・浄蔵貴所(じょうぞうきしょ)が、庶民のために創建したと伝わります。現在の御堂は、1679年に再建されたものといわれ、表門の屋根の上に「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿像があります。そして本堂の周りには、たくさんのカラフルな「くくり猿」が、参拝者により吊るされています。

格式のある厳格な雰囲気のお寺とは違い庶民の憩いの場の役割も果たしたような場所だったのかも知れません。いつしか60日に1度来る庚申の日はみんなで集まって徹夜で飲み明かす楽しい日になっていたのかも知れません。東京庚申信仰の中心的な場所は浅草寺や「寅さん」で有名な葛飾の柴又帝釈天です。いずれもどことなく庶民の生活や地域と密着して続いてきた雰囲気を感じますよね。

image by: 英学の「おもしろい京都案内」

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