無くならない交通事故、その原因は「錯覚」にあった?

2016.02.25
by Mocosuku
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見通しのよい交差点で車同士が出会い頭に衝突。

この種の「田園型事故」では、運転手の多くが「相手の車に気づかなかった」と述べているとのこと。

視界を遮るものがないのに、なぜ近づいてくる車に気づかないのでしょう。それは、視覚の特性にあると指摘する専門家もいます。「直進中に左右から別の車が同じような速度で近づいてくると、視野の隅の同じ位置にあり続けて、相手が止まっているような目の錯覚が起きる」というのです(※1)。

錯覚は、時折経験される、ちょっと面白くもビックリする現象です。なぜ錯覚は起こるのでしょうか?

目の錯覚、錯視

五感を使ってモノやできごとを認知する経験を「知覚」と呼びます。その際、知覚体験の内容と知覚対象の物理的特性がズレることを錯覚と言います。特に見ること(視覚)で起きる錯覚を「錯視」と呼びます。

以下、さまざまな「錯視」をご覧いただけます。

錯視のカタログ

見えたものと(物理的)事実がずれる「錯視」は、「見落とし」「見間違い」といった個人的なミスではありません。また、精神障害者の「幻覚」のように、実在しないものが見える経験でもありません。

健常な多くの人に共通して同じ「錯視」が起きるのです。冒頭の「田園型事故」も、運転手の見落としや病気では済まされないのが重要なところです。

脳が錯覚を起こす?

錯視の場合、目が錯覚を起こすと想像されるかもしれませんが、むしろ、脳が網膜画像からの視覚情報を処理する際に、不適切な情報を削除したり、足りない情報を補完しながら、正しい物体像を復元しようする中で、間違った物体像と鋳型合わせをしてしまうのが錯視ではないか、という見解もあります(※2)。

情報処理をする脳、適応を選択した人間

外界の事実を私たちはそのまま認識しているわけではありません。

脳や感覚器官などが情報処理(解釈といってもよいでしょう)をして、意味ある認知をするのが知覚体験です。「錯覚」を、その過程で生じるバグのようなものとみなすこともできるでしょう。

一川誠准教授(※3)は、錯覚の説明原理として、対象が変化しても知覚がそれほど変化しない「恒常性」は、人間が「正しい」知覚よりも安定した知覚を成立させるという生存への適応を選択したからではと推論されています(※4)。

錯覚のメカニズム解明はこれから!

北岡明佳教授(※5)は、なぜ錯視が起きるのかは、錯視の種類ごとに原因があり一言で説明できないし、長年の研究にもかかわらず原因がはっきりしないものもあると断った上で、目や脳、ニューロンやこれらの連携といった、知覚心理学、神経生理学、脳科学や数学などの共同研究が、まさにこれから、錯覚のメカニズムを科学的に解明してくれると大きな期待を寄せられています。

事故の原因が錯覚だったのは深刻な事態でしょう。

そんないい加減な目を信用しないで、センサーで自動的に停止したり、障害物を回避する技術が、新しい自動車には搭載されるようになってきました。

しかし、錯覚は「間違っているから悪い」ばかりではありません。錯視図はどれを見ても楽しいですし、これを利用したエッシャーのだまし絵などの芸術もあります。また、コンピュータの発展によって、さまざまなヴァーチャル体験ができるのも、錯覚を活用した結果です。

錯覚にはさまざまな恩恵もあります。

参考:
※1:<交通事故>錯覚が招く「衝突」 見通しはいいのに…
※2:宇賀貴紀(医学博士)の脳科学に関する論文より
※3:千葉大学准教授、実験心理学
※4:一川誠『錯覚学』集英社新書
※5:立命館大学教授、(心理学)

執筆者:山本 恵一
監修医:坂本 忍

 

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記事提供:Mocosuku

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